コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第45回 新潟県(上)

2003/09/29 20:29

週刊BCN 2003年09月29日vol.1008掲載

 新潟県は南北に海岸線約350キロメートル、面積は1万2500平方キロメートルと全国で5番目に県土が広い。市町村数は110と北海道の半分とはいえ、数は少なくない。その新潟県は市町村合併と地域情報化を急ピッチで進めている。これにともないIT化のニーズも高まっているはずだが、ITベンダーの反応はいまひとつのように見受けられる。県内の市町村でのシステム共同開発・運用という課題が、なかなか進まないことがその一因だ。(川井直樹)

県全体でのシステム共同開発・運用の検討進まず 合併協17か所、まず市町村合併が優先

■県の方針が不明確

 「新潟県が抱えている問題は多い」とは、新潟県のある職員。北朝鮮拉致家族の問題や北朝鮮の貨客船「万景峰号」の入港、東京電力の柏崎・刈羽原子力発電所でのトラブル隠しに始まる一連の問題、さらに県が関係する新潟市内の産業施設「朱鷺メッセ」での連絡橋の落下など、このところ県が担当する問題が次々に起きている。

 一見IT化と関係ないように見えるこれらの問題は、実はIT化の進捗に大きな影響を与えているのだという。

 影響で最も深刻なのは、限られた人材をそうした問題に割かなければならないこと。拉致家族の問題では企画課に「拉致被害者・家族支援室」を設置するなど、重要問題を優先して解決しなければならないため、県内全域を網羅する地域情報網の構築などにまで人手が回ってこない。

 新潟県は2002年11月に県内の地域情報化、市町村の電子化を進めるために、「新潟県市町村情報化推進協議会」を設置した。協議会は、市町村における電子自治体システムの共同開発・共同運用が目的だが、昨年度に2回会合を持っただけで、今年度はまだ開催されていない。自治体の中には、「県の方針が明確でないため、独自に進めることも考慮に入れている」というところもある。

 このため、「10月後半には協議会を開く」(新井一仁・新潟県総合政策部情報政策課地域情報化係長)予定でおり、共同開発・共同運用に向けた取り組みを本格化する方針だ。

 共同運用の検討が進まないのは、何も県の責任ばかりではない。市町村合併という大きな問題が並行して進んでいる状況では、どうしても情報化の部分が後回しになるという事情もある。

 新潟県の合併協議会は法定協が10か所、任意協が7か所、研究会が1か所ある。政令指定都市を目指す新潟市は、周辺12市町村と「新潟地域合併問題協議会」(任意協)を構成。佐渡島の10市町村は04年3月1日に1市となる。

 編入合併の場合、中核となる市の情報システムに統合することで事実上決着しているところもあるが、電子申請などのフロントオフィスについては、大部分が市町村情報化推進協議会の検討が進むことに期待を寄せている。

 その一方である市の担当者は、「110もの市町村を束ねるのは県には難しいだろう」と見る。南北に長い県土を考えると、物理的にも県の地域情報化担当セクションで市町村の意見をまとめるのは困難な作業。地域情報化担当は、情報政策課の中でもわずか3人の小所帯だ。

 そのためもあって、県のスタンスは「県がリーダーとなってまとめるわけではない、あくまでも事務局の役目を果たす」(新井係長)と一歩引いて構えている。しかし、IT先進県ほど県庁のリーダーシップが発揮されているという事実は否定できないのだが…。

■04年度には県の申請・届出手続き電子化へ

 新潟県庁の電子化も遅れがち。県では01年3月に「電子県庁アクションプラン」を策定し、ITによる業務効率化を狙いに電子化を図っている。しかし、02年度に予定されていた77の作業項目のうち44項目は予定通り実施されたものの、残りは今年度に持ち越しになった。

 「パソコンの職員1人1台体制もようやく今年度に実現。本格的に業務の効率化を進めたいが、文書管理システムの導入などでは、一部に消極的な意見があるのも事実」(木川義裕・新潟県情報政策課電子県庁推進班政策企画員)と必ずしも順調とは言えない様子。しかし、03年度には、04年度の運用開始を目指して県の申請・届出手続きの電子化を図るための作業を続けている。

 「県の申請業務は5000以上にのぼる。いきなり全てを電子化できないので、まずは採用試験など導入しやすい部分から」(木川氏)と、60程度の申請から電子化する方針だ。その後は、庁内の物品調達や庶務業務などを電子化していく考えで、今は一部に残る抵抗も徐々に氷解させていく作戦だ。

 IT化で業務効率改善を浸透させていくためのもう1つの作戦は、「各課にITを使った業務改革を進める人材を育てる」(同)ということ。これまでホームページの担当やパソコンの使い方を熟知した職員を育て各課に置いているが、業務改革の実現のために、さらにスキルアップした人材を配置するのだという。

 新潟県の情報ネットワークは東北電力系の通信会社、東北インテリジェント通信の回線を借り上げて構築している。県の基幹ネットワークとしては、教育、行政に加えて医療が3本柱。岩手県に次いで県立病院が15か所と多い新潟県だが、現在、医療情報ネットワークを運用しているのは、新潟大学医学部付属病院と県立がんセンター新潟病院、県立病院ではない佐渡総合病院の3か所。

 昨年6月から12月までの利用状況は、遠隔症例検討会などが30回、遠隔画像診断支援420件など、画像情報を使った診断に威力を発揮している。今後は、他の病院にも運用を広げることが課題になってくる。

 こうしたネットワーク構築について、新潟県は早くから取り組んできた。県内の市役所や町村役場とISDN回線でつないだ市町村情報ネットワークを構築したのが98年。LGWAN(総合行政ネットワーク)の“はしり”のようなシステムで、現在でも使用している。

 そこに、新たにLGWANを導入しなければならず、独自に構築した県内の行政ネットワークとの重複から、市町村側にインフラの必要性に対して混乱も生じている。


◆地場システム販社の自治体戦略

BSNアイネット

■社内に「市町村合併対策室」設置

 市町村合併計画が着々と進められている新潟県。長野県や富山県の大手システムインテグレータ、大手ベンダーもこのチャンスに県内での勢力拡大を狙っている。

 自治体ビジネスでこれら勢力に対抗しているのが地元大手のBSNアイネットだ。

 今年4月に「市町村合併対策室」を設置。情報システム統合に対して、本格的に準備を進めている。「専任のSE(システムエンジニア)を置いている」(折戸知足・公共システム事業部営業部長)というように、県内ほとんどの市町村の情報システムに関わっているだけに、そのサポートと顧客の確保は重要なミッションになる。

「合併が進むことで一時は顧客数が減ることもある。しかし、基幹システムだけではなく業務ごとのサブシステムや、公共需要では医療情報システムなども電子自治体構築に合わせてニーズが広がっている」として、新潟県以外も含めて全体としてビジネス拡大のチャンスと見ている。

 新潟市にはBSNアイネットなどが出資する「新潟データセンター」がある。「電子自治体は24時間365日稼動。自治体でそれに対応していくために、アウトソーシングすることは不可欠で、アウトソーシングに対する関心も高まってきた」と、県内にデータセンターも準備して、あらゆるニーズに応えられる体制を築いている。
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