テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>12.牛トレーサビリティシステム(1)

2003/10/20 16:18

週刊BCN 2003年10月20日vol.1011掲載

 牛のトレーサビリティシステムが、12月1日から法律施行に基づいた本格運用を開始する。全国規模で生産・流通段階の履歴情報を追跡管理できるトレーサビリティシステムが動き出すのはわが国でも初めてのこと。IT化が遅れていた農業・流通分野に今後どのような構造変化をもたらすのか。e-Japan戦略の真価が問われることになる。(ジャーナリスト 千葉利宏)

安全な牛肉の流通に向けて

 今月初め、日本で8頭目となるBSE(牛海綿状脳症)と診断された牛が茨城県で見つかった。日本で最初のBSEが報告されたのが2年前の2001年9月。牛肉の安全性を確保するために、政府は、と畜場に搬入される全ての牛を対象にBSEのスクリーニング検査を実施する制度を導入。今回見つかった牛も同検査によって確認されたものだ。

 一方で、農林水産省では、全ての牛に「耳標」をつけて一頭ずつ管理する仕組みを構築する緊急対策に着手。国内で生まれた全ての牛と輸入牛約450万頭のデータベースを管理する「家畜個体識別システム」を開発、01年12月には耳標の装着と個体識別情報の入力作業を開始した。02年7月、個体識別システムへの情報提供義務付けなどが盛り込まれた「牛海綿状脳症対策特別措置法」が施行され、10月からインターネットによる情報公開をスタート。今年6月に、個体識別情報を牛の出生から消費者に供給される間まで追跡・遡及できるようにする「牛の個体識別のための情報の管理および伝達に関する特別措置法」(牛トレーサ法)が公布、12月から段階的に施行される。

 農水省では、今年7月に、食糧庁を廃止する一方で、食のリスク管理と消費者行政を担当する新組織「食品・安全局」を設置したばかり。この消費・安全局の衛生管理課(牛トレーサビリティ監視班)が、牛トレーサビリティ制度の構築・運用を担当。耳標や個体識別番号の管理から個体識別システムの運営までの実務は、独立行政法人家畜改良センター(福島県西白河郡)に委託する。現在、日本の牛の生産者は約13万戸。うち3万戸強が乳牛を扱う酪農家で、残り10万戸弱が肉用牛農家。肉用牛農家のうち約8割は子牛を生ませて売ることを主とした繁殖農家で、子牛などを買って商品に育てるのが肥育農家だ。国内では約450万頭の牛が飼われ、年間130-140万頭の牛が出生し、ほぼ同数がと畜場に搬入される。

 牛トレーサ制度では、牛が出生または輸入されたときに、耳標を装着して個体識別番号とともに農水大臣に届出を行うことが義務づけられ、他の農家へ譲り渡し・譲り受けしたときや、とさつするときにも届出が必要となる。すでに個体識別システムが稼動しているが、12月から牛の種類の届出区分が9種類から11種類に細分化、牛を譲り渡しまたは譲り受けた相手を明記するなど法律の規定に基づいた修正が行われ、届出しない場合の罰則規定も導入される。

 さらに、1年後の04年12月からは、とさつされた後の特定牛肉(卸売段階の枝肉、部分肉、小売段階の精肉を指し、内蔵、こま切れ、ひき肉、加工品などを除く)にも、個体識別番号の表示が義務付け。と畜者や販売業者は販売などの記録を帳簿につけて保存・管理が必要となる。「個体の情報を確認できる仕組みを構築することで消費者の安心につなげていく」(池田正樹・消費・安全局衛生管理課係長)ことを目的に始まる牛トレーサ制度。農家や流通業者のIT化を大きく後押ししようとしている。

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