WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第175回 各社次なる狙いの源

2003/10/27 16:04

週刊BCN 2003年10月27日vol.1012掲載

 IT不況からの脱出を狙うため、日米有力ITベンダーは一斉に、「経営とITの融合」を謳う新しい企業システムのコンセプトを打ち出した。IBMはこれを「オンデマンド(市場変化に敏捷に反応)」、ヒューレット・パッカード(HP)は「アダプティブエンタープライズ(適応進化型企業)」、日立製作所は「ハーモニアス(調和のとれた)」などと表現する。

ダーウィン「種の起源」

 現行ITシステム問題点として、日米大企業ユーザーはいずれも「ITと経営の乖離」を挙げる。このため有力ベンダーは市場の変化に対応できるビジネスモデルと、それを実現する次世代ITソリューションを提案している。この時、多くのベンダーが、進化論を唱えた英国生物学者ダーウィンの著書、「種の起源」に述べられた「生き残る生物」に関する次のような条件を引用する。 「この世に生き残る生物は、最も強いものではなく、最も知性の高いものでもなく、最も変化に対応できるものである」。各ベンダーはダーウィンのこの考え方は、急速に日々変化する市場に対応しなければならない現在のビジネスにもそのまま当てはまると主張する。

 IBMは、このダーウィン語録をそっくり引用した「ビジネスの世界で生き残るのは、強いものでも、規模の大きいものでもなく、変化に対応できるものである」という表現を国内のオンデマンドキャンペーンでも使っている。2003年夏以降、ITベンダーが自社の新コンセプトで、経営とITの融合を特に強調し始めたのは、03年5月のハーバードビジネスレビューに発表されたニコラス・カール氏の論文『IT Doesn't Matter(もはやITなんか重要でない)』の企業経営者に与えた強い影響を懸念したからだと米ビジネスウィーク誌は解説している。

 カール論文の主張は、「コンピュータシステムもかつての電気や鉄道のように、社会の隅々までに普及してしまったインフラであるので、どの企業も極めて当たり前に使っている。従って、これにいくら巨額の投資をしたとしても、これをもって競争優位を確保できない」というものだ。カール論文に対しては、マイクロソフト、インテル、サン・マイクロシステムズなどが直ちに反論した。ウォールストリート・ジャーナルは、このカール論争に関し、「これまで巨額IT投資の経営的効果について不満を抱いていた米国大企業経営者の共感を呼んだのは否めない」と論評した。

 このカール論文があらためて「経営のITの完全融合」は、ベンダー、ユーザーが共通にもつべき次世代ITシステムの最も喫緊の課題だという認識を定着させた功績は大きいといえるだろう。同時に日米では、現行IT問題点として、「部門最適化システムの集合が全体最適ソリューションになり得なかった事実」を経験した。このため経営層によるITガバナンスを強化する「EA(エンタープライズアーキテクチャ)」も日米で大きな注目を集める。IT不況をきっかけにして、「ITと経営の融合」という古くて新しい課題に日米有力ベンダーが挑戦する時を迎えた。(中野英嗣●文)

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