OVER VIEW

<OVER VIEW>次世代ITの姿を探るベンダー Chapter4

2003/11/24 16:18

週刊BCN 2003年11月24日vol.1016掲載

 IBMなど有力ベンダーが次世代の姿として経営と一体化するITを追求するなか、デルはコモディティ商品によるエンタープライズデータセンター構想を発表した。「極度に安いTCO(総所有コスト)を実現し、これによる高いROI(投資対効果)で、経営が求める次世代のITソリューションへの期待に応える」と、デルのマイケル・デル会長は説明する。多くの課題が突き付けられているIT業界で、デルは業界標準部品によるコモディティ化戦略で最も明確にユーザーの期待に応えられるソリューションが提供できると主張する。(中野英嗣)

デルの徹底したコモディティ化戦略

■プロプライエタリと、コモディティ戦略

 UNIXサーバーで世界シェアトップを維持するサン・マイクロシステムは、自社チップSPRAC、自社OSのSolarisなどプロプライエタリ(専有)仕様の代表的ベンダーだ。一方、インテルのチップとマイクロソフトのウィンドウズ、あるいはオープンソースLinuxだけを利用するデルは、業界標準部品だけを利用し、IT商品のコモディティ化戦略を標榜し、世界のウィンテル市場で独走体制を固めつつある。

photo このデルが、これまでのパソコンとインテルサーバーからいよいよIBM、ヒューレット・パッカード(HP)、サン・マイクロシステムズ、富士通、NEC、日立製作所など世界有力ベンダーが席巻するエンタープライズ(大企業)データセンターサーバー市場への参入を表明した。

 デルのマイケル・デル会長は、2003年秋にはコモディティ化戦略でエンタープライズデータセンターのキープレーヤーになると宣言した。パソコン、インテルサーバーだけでなく、コモディティ化したインテルItanium2を1-2個搭載する小型シンサーバーを1台のラックに多数収納しクラスター構成とし、OSにはLinuxを採用することで、メインフレームの5分の1、UNIXサーバーの2分の1の価格を実現すると説明する。

 サンを代表とするプロプライエタリ型と、コモディティ化戦略のデルでは、IT不況をはさんだこれまでの4-5年間、その業績には大きな差が出ている(Figure19)。

photo デルは世界的IT不況の影響をほとんど受けずに売上高を伸ばしてきた。これに対しサンは00年をピークに40%近く売上高が減少している。この両社の戦略の違いは、経営指標の格差に明確に表われている(Figure20)。

 売上高総利益率はサンの43.2%に対し、デル17.9%で、デルの安値攻勢を裏付け、この利益率ではチャネルを使う余地はない。一方販管費率はデルの8.6%に対し、サンは4倍近い32.3%だ。また両社の戦略差異で最も大きな差が出るのが研究開発費(R&D)率だ。独自技術を開発し続けなければならないサンは、売上高が大きく減少してもR&Dを削減できず、その比率は16.1%まで高まった。これに対し、標準部品だけを使うデルの同比率はわずか1.3%で、世界の有力ITベンダーの平均5-6%よりはるかに低い。このR&D率が極度に低いことがデル戦略を支える柱の1つだ。

photo■コモディティ大型サーバーで、企業の期待に応える

 デル会長は、「当社は企業の要求する安いTCOと高いROIに対し、エンタープライズの中核サーバーもコモディティ化することで応えたい。現在世界の企業経営者は規模の大小を問わず、IT投資、とくにハードやOS購入費を劇的に下げることが最も喫緊の課題だと考えている。この期待に応えられるのはデルのコモディティ戦略だけだ」と、抱負を語る。

 デルはパソコンというカテゴリーを出発点として、インテルサーバー、ストレージ、ネットワーク機器、プリンタ、そして直近にはIT領域でないAV(音響・映像)機器の音楽プレーヤー、薄型テレビへと参入し、そのパソコンで達成したキラーとしてのカテゴリーの領域を拡大しようとしている(Figure21)。

photo そして今、エンタープライズの大型サーバー分野へもそのコモディティ化戦略を拡大する。デルの大型サーバーは、これまでの大規模マルチプロセッサ型サーバーがプロセッサやメモリを増設して処理性能を高めてきたスケールアップ方式とは異なるアーキテクチャだ。デルは2プロセッサ程度のインテルの標準サーバーをラック又はシャーシ内に複数台収納するクラスターサーバーを基盤とする。性能向上はサーバー台数を増やすことと、制御ソフトによって複数サーバー間で処理負荷分散することで実現する。これをデル会長は「スケールアウトコンピューティング」と呼ぶ。

 このサーバーはオラクルが提供するミドルウェアによって制御され、さらにオラクルが03年秋に発売したグリッドコンピューティング用データベースソフトで、大規模グリッド構成まで拡張される。デルはエンタープライズ市場でも、サーバーハードと、顧客ITインフラ設計を中心としたITサービスだけを提供する。部品はすべて業界標準だけを採用する、完全な水平分業型モデルを貫き通す(Figure22)。

 この水平分業の利点だけを活用し、その上にデル固有のビジネスモデルを展開する。

photo■デルのエンタープライズ戦略へは、競合が強い反論

 デルのコモディティ戦略によるデータセンター市場参入へは、IBM、HP、サンが激しく反発する。特にデルのR&D投資が極端に小さいことへの反発は厳しい(Figure23)。

 R&D投資はIT産業発展のカギを握ると各競合経営者は訴える。またIBMは、大量のトランザクション処理やデータベースアクセスにはスケールアップ機能が不可欠で、デルのスケールアウト方式だけでは実務上多くの問題点が露呈すると訴える。さらにデルが提供する限定的なITサービスだけでは、エンタープライズ向けITビジネスは成り立たないという。

photo デルのプロフェッショナルサービス担当のギャリー・コットショット氏は、「デルに残された課題はITサービスのコモディティ化で、多くの顧客に繰り返えし提供できるITサービスのモジュール化に挑戦している」と説明する。デルはこれまでの業績の急成長に自信を深めており、今後の売上高もエンタープライズへの本格的参入もあって、07年には600億ドルの大台に乗せると株主に約束している(Figure24)。

 デル会長は、「今後すべてのIT商品は標準部品だけによるコモディティ化の波に呑み込まれ、プロプライエタリ技術に固執するベンダーは市場退出となる」と強気の発言をする。米著名ITアナリストのロブ・エンダール氏はデル戦略について次のように語る。「大規模データセンター構築にはIBMが主張するようにスケールアップ方式のサーバーも必要だ。さらに留意しなければいけないのは、エンタープライズIT投資の60%はITサービスへの投資で、今後この割合は一層大きくなり、安いだけのハード価格へのエンタープライズの関心はどんどん小さくなる」。
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