テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>18.パスポートの電子申請

2003/12/01 16:18

週刊BCN 2003年12月01日vol.1017掲載

 年間約380万件の発給申請が行われているパスポート。今年度内に原則全ての行政手続をオンライン化する政府の方針に基づいて、外務省でもパスポートの電子申請をスタートする。申請時とパスポート交付時の2回、窓口に出頭する必要があった手続きを、交付時の1回だけで済む仕組みを構築。利用者の利便性向上に向けて第1歩を踏み出す。(ジャーナリスト 千葉利宏)

利便性向上への第1歩に

 パスポートの発行手続きで最も重要となるのが、日本国籍保持者の本人確認作業だ。原則として申請時と交付時の2回、窓口に出頭し、申請時には(1)戸籍謄本または抄本、(2)住民票の写し(本籍記入)、(3)顔写真、(4)身元確認書類(運転免許証等)、(5)未使用官製はがき(郵便による住所確認用)、(6)申請書(サイン添付)――を提出する必要があった。こうした手続きの手間を軽減するために、1990年から申請時の代理人届け出を認め、95年からは有効期限10年のパスポートも発行している。

 「日本国籍を確認する手段はやはり戸籍。当初は『戸籍が電子化されない段階ではパスポート発給申請の電子化は難しい』との議論もあったが、電子政府構築の方針に沿ってオンライン化を進めることにした」(北村進・外務省大臣官房領事移住部旅券課外務事務官)。今回の仕組みは、厳密に言うと"戸籍"部分を除いたオンライン化。戸籍謄本・抄本は郵送する必要がある。

 しかし、それ以外は昨年度と今年10月の2度の実証実験を通じて電子化のめどを付けた。申告受付は、各都道府県が導入を進めている24時間365日対応の汎用受付システムを利用。同システムで受け付けた電子申請を都道府県パスポートセンターのシステムから呼び出して、新たに導入する審査用端末で外務省のパスポート発給管理システムと連携しながら審査。導入済みのパスポート作成機でデジタル印刷する。

 戸籍以外の申請書類の電子化対応はこうだ。住民票の写しは今年4月から住民基本台帳ネットワークを活用した本人確認を導入済みで、住基ネットに接続している都道府県では不要。匿名性が高いオンライン申請における本人確認には、来年1月開始予定の公的個人認証制度を利用する。

 今回、新たに開発したのが、顔写真とサインを送信する仕組みだ。顔写真はデジタルカメラで撮影した画像をパソコンに取り込んだあと、パスポート写真に適したデータに切り出して補正するソフトを開発。ホームページから無償ダウンロードして利用してもらうことにした。サインもスキャナーなどで読み込んで電子化して添付できるようにする。

 パスポート作成が完了すると、通常は住所確認用のはがきで通知、その葉書と身元確認書類を持参のうえ出頭し、手数料を支払って、パスポートを受け取る手順。これが電子申請では、電子メールで審査完了が通知されると、申請者側から汎用受付システムにアクセスして受理通知を取得し、身元確認書類を持参して出頭する。

 今回の電子申請実証実験では、戸籍の電子化を含めて課題もいくつか残された。まず、各部道府県が汎用受付システムを導入する時期がバラバラで、年度内にサービスを開始できるのは一部の県に限られる見通し。利用できる電子証明書も住基ネットをベースとした公的個人認証に限っているため、電子申請の利用ニーズが高い海外在住者は利用できない。例年、申請手続きの約1―2割を占める更新手続きも、申請する際に手もちのパポートを返納する必要があり、今後検討が求められそうだ。

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