OVER VIEW

<OVER VIEW>世界のIT業界、緩やかな市場成長へ Chapter3

2003/12/15 16:18

週刊BCN 2003年12月15日vol.1019掲載

 ハードウェアの価格デフレが続くなか、緩やかな成長軌道に乗った2004年以降の世界IT市場では、広義のITサービスが市場牽引の主役となる。長年利用顧客が増えなかったASPも、ソフトビジネスのサービス化の波に乗って米国では立ち上がった。しかし、ITサービスはこのまま事業領域を拡大しても、旧来からの労働集約型ビジネスから脱出できない。ITサービスへ軸足を移したIBMも、その収益向上のため人的資源の限界もあって、労働集約型でない新しいサービスを探求することをIT業界に呼びかけている。(中野英嗣)

ITサービスセクターが主役となるIT業界

■業界利益は広義のITサービスが稼ぎ出す

photo 95年世界のIT産業は、コンポーネント、サーバーやストレージ、そしてパソコンなどハードウェアが、全IT産業利益の58%を稼ぎ出すハードウェア中心時代であった。これがIT不況に覆われ始めた00年にはハードウェア利益構成比は54%となったが、激的な変化とはいえなかった。しかし、長びいたIT不況から脱出し、緩やかな市場成長軌道に回復する05年のIT業界では、ハードウェア利益構成引は35%と激減する予測が03年に米国アナリスト会議で報告され、参加者に大きな衝撃を与えた(Figure13)。

 この利益が極端に小さくなるハードに代わって、業界は顧客へビジネスバリューを提供する事業と、これを支えるサービス&ソフトウェア事業が全利益の65%を稼ぐようになる。ハードウェアはこれを支えるコンポーネントの性能当たり単価が大幅に低下し、これにつれ各ベンダーが生産するハードウェアシステムの付加価値が大幅に小さくなるからだ。これが一般にいわれる価格デフレ、価格破壊がもたらした現象だ。

 とくにハードウェアシステムでは、業界標準部品の価格下落によって、コモディティ商品化したパソコン、IA(インテルアーキテクチャ)サーバーの付加価値が大幅下落した。とくにパソコンの付加価値減少は激しく全利益の4%しか稼げない。従ってパソコンやIAサーバーは出荷台数には明るさが戻ったものの、単価の激しい下落によってハードウェア事業は「台数足りて銭足らず」の現象から今後も抜け出せないと覚悟しなければならない。

photo 顧客ビジネスバリュー提供では、顧客のビシネスプロセスを変革させるビジネスコンサルティングや顧客のeビジネス化を支えるインフラ提供が主体となる。従って、これと一体化するサービス&ソフトウェアのウエイトが高まるのは当然だろう。こうして今後のIT業界では、技術革新によって需要拡大してきたハードウェアに代わって、広義のサービス&ソフトウェアが主役となる。

 この動向では例えば、出現以来期待されながらもしばらく鳴りを潜めて立ち上がらなかったASP(アプリケーションサービスプロバイダ)利用が米国市場で03年から急速に増加し始めたことも証の1つとなろう。とくにピープルソフト、シーベルなど有力CRMベンダーが自社ソフトウェア商品を販売からASPのホスティングサービスへ切り換えたことで需要が急増し始めた。従って、今後ソフトウェア事業もITサービスの形態が主流になると米国では予想されている(Figure14)。

■新規戦略投資資源の捻出を狙うAMS

photo 企業ではIT部門が常に多くの課題を抱えている。IT部門は企業ビジネスとITインフラの交叉する分野の任務を担っているからだ(Figure15)。

 従って、IT部門の課題は多岐にわたり、単にITインフラ構築や運用に関わる問題だけでなく、ビジネスそのものに関する課題も多い。この企業ITの問題に対処し、これを解決するのがITサービスの役割だ。この課題解決のITサービス事業と期待される分野が、AMS(アプリケーションマネジメントサービス)である。AMSには企業ビジネスと連携するシステムアーキテクチャの確立、ITの品質向上やコスト削減と並んでIT予算の大幅な増加が期待できない環境で、新しいIT投資をどう捻出するかという重要な役割がある。AMSは一過性でなく、長期にわたって顧客アプリケーションの保全とコスト管理を行う。そしてAMSによって既存アプリケーションの修正・拡張を含めた運用コストを削減し、そこから新規IT投資資源を見つけ、さらにその削減されるコストの一部は企業利益に還元する役目も担う。

photo 米国ではIT投資を日常的・固定支出と、戦略的投資に分けて考えることが一般的だ。とくに多くのIT投資調査は、全IT支出に占める戦略的投資の割合いの高いことが企業業績向上につながっていることを教える(アクセンチュア)。従って戦略的な投資資源を捻出することは企業にとってきわめて重要だ。さらにこのAMSが発展すると、究極のITサービスといわれる従量課金制のユーティリティコンピューティングに収束するとIBMは説明する(Figure16)。

 ユーティリティでハードウェアも箱売りから脱し、コンピューティングサービスとして提供する。当サービスで顧客は、常に変動する必要処理パワーを気にすることなく、すべての処理をアウトソーシングし、しかもITコストを固定費から変動費に変えられるという利点を享受できる。この時IT部門の役割も日常的ホスティングから解放され、ITポリシーの確立とその遵守を通じて企業のITガバナンス強化に絞られる。

■ビジネスプロセスの変化に対応する、新しいITサービスの探求

photo ITサービスへ事業重点を移したIBMのサム・パルミザーノCEOは、ITサービスへの期待を語る。

 「ITサービスは困難な課題も多いが、ITセクターでは未開拓分野が最も大きい。未開拓分野を序々に事業領域とすることで、今後とも世界ITサービス市場は伸び続ける」

 こう期待を述べながら、同CEOはITサービスの抱える根本的問題点も次のように指摘する。「ITサービスの最上流には顧客へのビジネスコンサルティングがあり、IBMもここへ参入した。しかしこの事業もこのコンサルタントが稼働した時間単価で請求する労働集約型からは脱出していない。このまま売上高を伸ばすには陣容を拡大しなければならないが、そこに要求される人的資源からも、これは既に限界である。従ってIT業界は知恵を絞って、労働集約型でないサービスを探し出さなければならない」(Figure17)。

photo 新しいサービスでは顧客利益の一部を報酬として受け取れるビジネスや、特殊目的のデータベースの構築運用などの全く新しいサービスプロトタイプも姿を見せ始めている。有力ITベンダーは顧客ビジネスプロセスの変化に柔軟に対応できる新しいITコンセプトを打ち出している。例えばその代表例はIBMのeビジネス・オンデマンドだ。

 ここでは顧客ビジネスの変革、これを支えるIT構築運用、そしてIT投資のすべてにわたって、ITベンダーの提供する各種ITサービスが事業基盤となっている(Figure18)。
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