コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第57回 鹿児島県(下)

2003/12/22 20:29

週刊BCN 2003年12月22日vol.1020掲載

 鹿児島県でも市町村合併の嵐が吹き荒れている。県内96市町村のうち92市町村で合併法定協議会が16か所、任意協議会が4か所、研究会が1か所あり、合併に関わっていない市町村を探す方が難しい。それだけ合併が検討されているなかで、情報システムをどうするかという検討は遅々として進んでいない合併協議会の方が多いのが実情のようだ。鹿児島県はLGWAN(総合行政ネットワーク)の整備では、全国に先駆けてほぼ100%の市町村で接続を果たした。それほどIT化に対して取り組みが早い面と、その逆に合併で情報システム統合が進まない面とを併せ持っている。(川井直樹)

情報システム統合には、時間不足の懸念も 96市町村のうち92か所が合併に関与

■電算化のリーダーシップをとる鹿児島県町村会

 手元に、鹿児島県内各市町村の基幹システムおよび地域イントラネットを、現在どのITベンダー、システムインテグレータが担当しているかの一覧表がある。

 富士通やNEC、日立製作所、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、三菱電機などの大手ITベンダーのほかにも、鹿児島県内の南日本情報処理センター(MIC)、熊本県のRKKコンピューターサービスなどの社名が並ぶ。その中で、一部の市を含めて町村で圧倒的に高いシェアを獲得しているのが、鹿児島県町村会だ。

 日本全国で、町村会が情報システム構築の事業を行っているのは、鹿児島県のほかに北海道、京都府、熊本県の4か所しかないといわれる。鹿児島県で町村会のシェアが高いのは、役場での電算業務がかつての委託方式から独自導入方式に変わる時代に、町村会がリーダーシップをとって町村の電算化を進めてきた背景があるため。介護保険システムについては96市町村のうち、名瀬市や垂水市など市も含めて67市町村で、町村会の情報化推進事業として担当してきた。

 さらに、鹿児島県のLGWAN接続がスムーズに進んだのも、個別発注ではなく町村会がリーダーとなって一括で、富士通サポート&サービス(Fsas)に対し発注したため。「端末の価格は通常は1000万円といわれるが、それよりはるかに安い価格で調達できた」(横内宗人・鹿児島県町村会情報開発課長)と、財政難の各自治体に貢献した。

 町村会は、「ITベンダーのパッケージは使わない」(横内課長)という方針で、町村のシステム構築を行ってきた。町村の基幹システムでは、北海道町村会が開発したTAWNや、京都府町村会が開発したTRY-Xでシステム構築しており、TAWNが33町村、TRY-Xは23町村で活用されている。

 町村会そのものがシステムインテグレータになっているわけで、鹿児島県町村会によれば、「町の場合で年600万円、村は年300万円で保守サポートを請け負っている」(横内課長)と、個別に料金を設定するのではなく、一律で決定している。システムエンジニア(SE)の数も33人を抱えている。

 しかし、横内課長によれば、「この値段では大赤字」という。町村会が利益を上げることに関しては異論も出そうだが、「保守経費だけで莫大になる」と情報システム事業については“黒字体質”とは程遠い。

 これに追い討ちをかけるのが市町村合併だ。人口の多い市を中心に合併するケースが多いため、どうしても町村会の顧客ではない市がもっている情報システムへの統合が多い。そうなると必然的に、町村会のユーザーは少なくなる。

 鹿児島市を中心とする1市5町の合併の場合、鹿児島市は日本IBM製のシステムを使用している。合併予定の5町のうち喜入町が富士通、松元町と吉田町、桜島町の3町は町村会、郡山町が三菱電機となっているが、すでに「鹿児島市のシステムに編入統合することになっている」(池田哲也・鹿児島市企画部情報政策課IT推進係係長)ということで、日本IBM以外のベンダーは顧客を失う。さらに、川内市を中心とした川薩地域1市7町村の合併では、川内市は富士通ユーザーであり、それ以外の7町村は全て町村会のユーザーだ。

■各ベンダーとも“確実な”データ統合提案へ

 「このままでは確実にユーザーが減少していく」(新田敏郎・鹿児島県町村会開発室自治体IT推進プロジェクト主任)という危機感はある。町村会という組織の性格もあり、県や市町村でのシステム共同化を検討する「鹿児島県電子自治体運営委員会」の事務局長には、町村会事務局長が就いている。この中には、市町村でのオンライン手続きを共通化するための「市町村手続きプログラム開発部会」があり、県のほか、5市10町の担当者に加えて町村会の新田主任も参加して、業務フローや様式の統一化に向けた検討がスタートした。

 町村会が必死ならば、ITベンダーも必死だ。大手各社の鹿児島支店にとっては公共需要の占める割合が大きく、合併案件の受注は鹿児島県内でビジネスを継続できるかどうか、という生命線を握っているともいえる。

 この連載で地方自治体の取材を開始した1年前は、各ベンダーとも「合併案件は全て獲得する」、「市町村合併は、固定化していたシェアを逆転するチャンス」というスタンスで一致していた。

 しかし、合併特例法の期限まであと1年3か月に迫った現在では、「合併当日にシステムが動かない、という事態を避けるためにも安全確実でなければならない、と提案している」(赤瀬淳也・富士通鹿児島支店長)、「合併市町村に対しては、できるところから確実に構築していこうと説いている」(久永明博・NEC鹿児島支店長)というように、確実なデータ統合を進めるような提案に姿を変えてきた。

 「今、(合併が)決定するとしても1年程度の開発期間では厳しいと言わざるを得ない。ましてこれからというなら、あれもこれもと盛り込めるわけがない」(大手ITベンダー公共部門担当)というように、時間不足は決定的だ。

 2004年3月には、九州新幹線が熊本県・新八代駅と鹿児島県・西鹿児島駅間で部分開業する。西鹿児島駅周辺は再開発ラッシュだが、駅地下街は工期の遅れから完成が新幹線開業に間に合わないことが決定的になった。市町村合併の情報システム統合も、まさにそれと同じような危機に直面しつつある。

 鹿児島県町村会や、大手ITベンダー、地元のシステムインテグレータにとっても、自治体顧客の減少と合併対応の情報システム統合の時間がなくなるという危機が迫っている。


◆地場システム販社の自治体戦略

NEC・鹿児島支店

■地元システム販社をバックアップ

 NECは串木野市、垂水市、出水市、名瀬市の4市が基幹システムのユーザー。このうち合併に関係のない串木野市のほか、高野町との1市1町の合併になる出水市、奄美大島と喜界島の1市7町合併となる名瀬市は、それぞれ中核になる市を抑えているために受注獲得は間違いないだろう。しかし、大隈中央合併協議会は、鹿屋市(富士通)、垂水市(NEC)、吾平町(RKKコンピューターサービス)、輝北町(鹿児島県町村会)の2市2町で4社の争いだったが、日立製作所が獲得した。

 NECの久永明博・鹿児島支店長は、「チャンスがあれば競争して獲得することもできるが、もはや時間も限られている」とし、これまで実績のないところで獲得してもデータ統合にしても難しいだろう、と語る。その点、奄美大島などの大島地区については町村会ユーザーが多いため、町村会との協力が期待できる。

 鹿児島県ではシェアの低いNECだが、パートナー企業の南日本情報処理センター(MIC)が、鹿児島県のシステム共同化でIDC(インターネットデータセンター)機能を提供することになった。当然、「電子申請などのフロントシステムだけではなく、各業務システムのアウトソーシングについてもMICに協力していく」と、地元システムインテグレータをバックアップしていくことに注力していく。
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