WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第183回 デルのホワイトボックス

2003/12/22 16:04

週刊BCN 2003年12月22日vol.1020掲載

 世界のパソコン、インテルサーバーで快進撃を続けるデルであるが、すべての戦略が同社マイケル・デル会長の思い通りに行くわけではない。その典型的な例が、2002年に開始したパソコンのホワイトボックス戦略だ。ダイレクトモデルで成功してきたデルは、チャネルを無視し続けてきたが、このチャネルにノンブランドパソコンを提供しチャネルブランドによって米SMB(中堅・小企業)にソリューション付きで販売させるのが、デルの目算だった。

未熟な戦略で目算はずれ

 米国パソコン市場ではデルとホワトボックスがともに30%程度のシェアを握っており、このホワイトボックスをデルが提供することで、デルの実質シェアを圧倒的に高めるのがデル会長の狙いだった。しかし、米国業界が予想したように、デル戦略に賛同するソリューションプロバイダ(SP)は極めて少なかった。デルのジム・シュナイダCFO(最高財務責任者)は、「ホワイトボックスにデルが注力したわけではない。この戦略は今後もいくつかの市場セグメントで実験を続ける。当社のホワイトボックスは成功したとはいえないが、デルの本命であるデルブランド市場を浸食したという実害もなかったからだ」と語り、1年前とは様変わりのトーンダウンぶりである。

 デルのホワイトボックス戦略を聞いた多くの米SPは、当初はSPの顔でSMB市場へデル製ホワイトボックスを販売させ、追加のプロセスでデル直販によるデルブランド品への切り換えを危惧した。さらにデルのホワイトボックスはデルブランド市場でのカニバリズム(共食い)を起こさないよう、例えばバス性能も劣り、価格的にも魅力の小さな商品だった。デルにとってみれば、デルブランド市場での競合を起こしては、戦略的意義がなくなるからだ。あるSP経営者の1人は言う。

 「当初、われわれの利益源であるホワイトボックス市場へデルが参入することで、その値崩れが最大の懸念だった。しかし、性能的にも価格的にも魅力がないデル製品を扱うSPは少なかった。さらにデルはホワイトボックスがなぜ、SMBに人気が高いかの真の理由を知らなかった。我々の組み立てる自社ブランドパソコンや、サーバーの価格には顧客も魅力を感じていないかもしれない。しかし、これらには顧客の要求するすべての機能が含まれている一方、要求しない機能が過剰に搭載されていないことに顧客は満足しているのだ。これは顧客システムの現状、将来性を熟知している出入りのSPだけにしかできないことだ」。いずれにせよ、パソコンという同一市場を狙いながら、自社ブランドとはカニバリズムを引き起こさずに、SP組み立て市場だけへ侵入するというデルの狙いには矛盾があった。

 デル本業に傷を付けないためには、デルブランドを価格的にも性能的にも超えることは許されなかった。さらにデルの注文生産方式と、SPが顧客要求性能を詳細に分析して、一品づつ組み立てる方式とは全く異なるマーケティング手法なのであったことを、デルは認識していなかったといえよう。(中野英嗣●文)

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