中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>49(最終回).高まる変化しないリスク

2003/12/22 20:43

週刊BCN 2003年12月22日vol.1020掲載

 1年にわたる当連載は今号で最後となった。思えば、今年も中国を巡る動きは慌ただしく、1年間がアッという間に過ぎた。(坂口正憲)

 春先に猛威をふるった新型肺炎のSARSは、中国ビジネスを機能停止に陥れ、様々なビジネスプロジェクトに多大な影響を与えた。当時、取材で会った関係者の多くが、先行きが見えないなかで大きな不安を抱えていた。それは、国内ソフト産業と中国の関係が抜き差しならない段階に入ったことを示している。低コスト開発のために中国へ現地法人を設立、あるいは中国企業と提携する。中国へ進出する顧客に合わせ、現地でサービスを提供していく。いずれにしても中国との関係は深くなった。夏前にSARSが終焉すると、中国との関係はすぐに盛り返しを見せた。最近の景気回復基調を支える要素の1つが対中輸出だ。

 もちろん、ソフト会社は以前のように手放しで“中国”に何かを期待しているわけではない。「中国リスク」を明確に意識するようになっている。来年春に向けSARS再発がささやかれている。国内の人件費が急落、低賃金で売ってきた中国の魅力が相対的に薄れ、逆に中国ビジネスの難しさが際立つようになってきた。前号で述べたが、開発手法の標準化が進んでいない国内ソフト会社の場合、オフショア開発のメリットを得にくい面も如実に現れ始めている。それでも、厳しい立場に立つソフト会社が生き残っていく方法の1つが、中国との関係強化であることは間違いない。

 受託開発中心の中堅ソフト会社の経営者は、「中国との縁がなければ、顧客の要望する価格、納期を実現できず、会社はここまで持たなかった」と話す。結局、中国と付き合うにもリスクを伴うが、国内にとどまり、現状の体制を変えないことにもリスクが伴う。IT業界の構造が変わりつつあるなかで、大手だろうが中小だろうが、ソフト会社に安全で確かな道はないだろう。中国がソフト産業で存在感を増している現実が、日本のソフト会社へ変化を促す。これは来年以降、さらに強まるだろう。最後に、身に余るテーマに対して、勝手なことばかり書き連ねた当連載をお読み頂いた方に、お礼を申し上げます。
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