米国流通最前線を行く

<米国流通最前線を行く>第1回 ベスト・バイ 全米最強の家電量販店

2004/01/05 20:42

週刊BCN 2004年01月05日vol.1021掲載

 米国には大規模なチェーン店網が数多く存在する。それらはいわゆる「モール」と呼ばれる大規模商業施設内に軒を連ね、各社ごとの特色を生かしながら、大量仕入れによる低価格と広大な販売網を武器に、きめ細かなサービスで市場を開拓してきた。しかし、長引く米国経済の低迷とライバルとの市場争いにより、いずれも経営は厳しい。パソコン関連商品が家電量販店の主役でなくなりつつあるなか、米国の家電量販店は次なる一手を見つけようと必死だ。そこで、これら米国の代表的な家電販売店の実情をレポートしていく。第1回目は、米家電量販店業界のトップ企業であるベスト・バイを取り上げる。(随時掲載)(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文)

“顧客が望む商品を、望む価格で提供”

■オーディオ店からスタート

 米国における、パソコン関連やデジタル家電の販売業界は、多くの専門チェーン店が名を連ねている。また、近年では売り上げと利益が確保できる市場として異業種からも参入が相次ぎ、競争が激化している。

 1990年代後半になると、インターネットの普及によるオンラインショップが出現し、往来型の企業を脅かし始めたが、それに対抗して彼らもネットでの事業に進出。その後現在まで、あらゆる商品のなかで最も熾烈な競争が続いているのが、これら家電量販業界である。

 ベスト・バイは、全米で現在ナンバーワンの売り上げを誇る家庭用電化製品の大手販売チェーン店である。1966年の設立当初は「サウンド・オブ・ミュージック」という会社名で家庭用オーディオを中心に販売していたが、70年代頃からビデオやコンピュータを取り扱い始め、ベビーブームによる需要拡大に合わせて急成長。83年に「ベスト・バイ」と改名し、家電製品をフルラインアップで扱うコンシューマ向け製品のスーパーストアへと業態を転換。その後も成長を続け、85年には株式を上場した。

■基本はセルフサービス

 ベスト・バイは、95年にそれまで業界第1位だったサーキット・シティを売り上げで抜いて業界トップに立った。現在でも、そのサーキット・シティをはじめ強力なライバルは多いが、その特徴的なロゴマークと覚えやすい店名などから消費者の人気は高い。経営方針は、小売業世界第1位のウォルマートを手本としており、顧客へのきめ細かなサービスが基本だ。

 標準的な店舗面積は87-240m2。来客が製品を自由に触ることができる陳列棚を数多く用意し、広い店内で顧客へのサービスが行き届いている。同社はセルフサービスを基本としており、過剰な接客を避けながらも、陳列の工夫や、大量一括仕入れによる低価格を強みとしてきた。

 これまで同社は、営業社員には歩合制を採用していなかった。これは、売り場ごとに担当者を配し、各部門ごとの売り上げに歩合を還元するサーキット・シティなどとは、正反対の経営方針である。

 しかし、近年のパソコン関連の売上増にともない、高い商品知識をもつ社員が数多く必要となり、これまで拒否してきたボーナス制度も導入し始めている。

■北米で550店舗を展開

 同社の特徴はその取り扱い商品の豊富さだ。パソコン関係中心のコンプUSA、それよりやや広い品揃えのサーキット・シティ、一般家電も多いPCリチャードなどが扱う商品群を、1社で全て網羅する。しかし、コンプUSAやラジオ・シャックが、数多くの商品をOEM(相手先ブランドによる生産)による自社ブランドでも展開しているのに対し、あくまで生産者ブランドでの販売に固執している。また、取扱商品が多いということで、必然的に各店舗は、大型店が名を連ねるチェーン店のなかでも最も大きい規模を誇る1つだ。

 03年現在、ベスト・バイが経営する店舗は、ベスト・バイのほかに、ベスト・バイ・カナダ(12店舗)、フューチャーショップ(104店舗)、マグノリアHi-Fiストア(19店舗)があり、中西部を中心に、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州などの激戦地域を含む全米48州とカナダで合計550店舗を展開する。

 各店舗の収益率は非常に高く、ライバルのサーキット・シティの170%にも相当する523万ドル(約5億4000万円)にも達する。相対セールスを廃し、セルフ方式の売り場を効率的に展開し、コスト削減を図っている。さらには、メーカーとの直取引を増やすなど、競争力のある低価格を維持し、ローコストの店舗展開を実現している。これらの経営努力への評価は高く、03年度のフォーチュン500社のなかでは第91位にランクされた。

■4つのコンセプトで店作り

 各店舗は大きく4種に分類され、それぞれコンセプト1-4と呼ばれる。いずれも典型的なセルフ&問屋形式の大型店舗だ。基本となるのはコンセプト1と2。

 コンセプト1は、専門訓練を受けた店員が可能な限りの接待を行う店舗。コンセプト2は、倉庫のように広い面積をもち、客が自由に動き回ることを前提とした店舗。コンセプト3とコンセプト4は大型店中心で、パソコン関連の双方向による情報発信コーナーなど、商品ごとの特性を生かした店舗内設備をもつ新しい形態で、94年後半にスタートした。

 いずれも、明るい店内には商品が豊富に揃えられ、何より低価格が売り物だ。しかし、郊外のモール内店舗などでは従業員が不足しがちなため、パソコン関連や液晶テレビなど、付加価値が高く、詳細な商品説明を必要とする売り場では、来客が商品について個別に質問をすることができるコーナーを別途に用意。また、テレビコマーシャルなどでも高品質な顧客サービスを売り物にしており、レジ横のサービスカウンターでの保証や修理などにも注力するなど、これまでライバルに較べて弱いとされてきた点も徐々に充実。顧客の評価も高くなってきた。

 現在では最新のストアコンセプトとして、インタラクティブな要素をもつ、コンセプト5を追加。この店舗形態は同社のウェブサイトでもバーチャルツアーを楽しむことが可能で、新規需要の掘り起こしに期待がかけられている。

 ベスト・バイは、ソフトの販売にも力を入れている。これは、ハードを購入した顧客は近い将来にソフトの販売も見込め、加えてソフト売り場は返品やサービスのコストがハードウェアよりも低く見込めるためだ。

 店内はカテゴリー別に仕分けされ、商品を選びやすいレイアウトを実現。音楽CDは3万5000種、VHSビデオは1万1000種、DVDは600種、ゲーム専用機器までも含めた各種のアプリケーション・ソフトウェアは2400種と業界ナンバーワンの商品数を誇る。オンラインではその特性を生かして、さらに数多いタイトルを扱い、ユーザーへの訴求度を維持しようとしている。

■システムにi2テクノロジー採用

 業界ナンバーワンの同社だが、かつて経営に問題がなかったわけではない。同社の特徴である、商品の即日受渡しや容易なクレジット決済は、逆に多量の不良在庫や不良債権を抱え易く、90年代前半には一時、増収減益状態に陥った。00年代に入っても事態は好転せず、03年には子会社のミュージックランド・グループを売却するなどの経営改善を行った。これにより約1100のソフト関連の販売拠点を失うなどしたが、結果的には株価が安定。ライバル企業の不振もあり、しばらくはトップ企業としての地位が見込まれている。

 ベスト・バイは、自社システムのIT化にも積極的だ。00年にサプライチェーン、ロジスティクス、プランニング、eコマースシステム構築のためにi2テクノロジーズと提携した。また、自前の物流センターのIT化による物流コスト削減も実施した。00年6月には、オンラインショッピングサイト「ベストバイ・ドットコム(http://www.bestbuy.com/)」をスタート。これは同業他社のなかでは後発になるが、当初からアカマイやインテルなどの大手IT企業の助力を仰ぎ、高品質のシステム構築に成功した。その結果、同社のサイトは公開後わずか6週間で人気サイトの50位以内に入った。ベストバイ・ドットコムのジョン・ワルデン社長兼CEOは、「ベストバイ・ドットコムは開設当初から膨大なアクセスがあった」と発表。実際にこの年のオンラインクリスマス商戦でも、期待以上の売り上げを記録したという。

■液晶テレビやDVD機器が売れ筋に

 ベスト・バイが業界トップの地位を維持し続けているのはなぜか。ニューヨーク市郊外のレゴ・パーク店のクリストファー・モルダ・マーチャンダイズ・マネージャーは、以下のようにコメントした。

「われわれの強みは、顧客が望む商品を、望む価格で提供していること。ただ安いだけではなく、無名ブランドの商品なども扱っていない。安心してショッピングを楽しむことができるという点が、幅広い層の顧客に受け入れられている要因だ」

 取材時は感謝祭からクリスマスまでのギフトシーズンの真っ最中であり、広い店内には所狭しと目玉商品が並べられていた。モルダ・マーチャンダイズ・マネージャーに、この冬の重点商品や好調な商品は何かを聞いてみた。「それは企業秘密。商品ごとの売り上げなども公表していない」と慎重だ。

 展示されている商品の選択や値付けなどのノウハウは、重要機密のようで、パソコン関係が頭打ち、液晶テレビなどの新製品群も思ったほどの売れ行きを示さず、業界全てが次の一手を模索するなか、商品構成の決定は、今後の売り上げを左右するキーポイントと考えているようだ。

 しかし、実店舗を見る限り、すでにパソコンやデジタルカメラなどよりも、液晶テレビや各種のDVD機器などに重点が置かれている。売り場面積もこれらの商品に広く割り当てられている。一方、ネットでの売り上げにも期待がかけられており、取材時にも積極的にオンライン・ショップをアピールするなど、非常に重要視しているのがうかがえた。

 しばらくは同社の業界第1位の地位が脅かされることはないだろうが、今後は他社が真似できない中核となる商品の開拓と、地域ごとに大きく変更が可能な独自の商品展開の実現が大きな課題となっていくだろう。

【会社概要】
■ 企業名:ベスト・バイ(Best Buy Co.,Inc.)
■ 社長:リチャード・M・シュルツ
      (Richard M.(Dick)Schulze)
■ 本社住所:ミネソタ州、リッチフィールド、
         ペン・アベニュー・サウス7601番地
■ 電話番号:612-291-1000
■ FAX番号:612-292-4001
■ 企業形態:株式上場済み、NYSE:BBY
■ 決算月:2月
■ 2003年度売上見込み:209億4600万ドル
■ 過去1年間の成長率:6.9%
■ 2003年度収益見込み:9900万ドル
■ 過去1年間の収益の伸び率予想:82.6%
■ 従業員数(2003年度):9万8000人
■ 過去1年間の従業員数の伸び率:4.3%
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