WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第185回 合併効果を問われるHP

2004/01/12 16:04

週刊BCN 2004年01月12日vol.1022掲載

 コンパックコンピュータの買収から1年半経た2003年10月、HPの年決算売上高は前年度比1.0%という微増にとどまった。強敵IBMがいち早くIT不況から脱却し、2ケタ近く伸長しているのに対比するとHPは、コンパック買収効果が実感できないというウォール街アナリストは多い。年売上高で見ると、プリンタだけは前年度比10.6%増となったが、エンタープライズシステムは同5.0%減、サービスも同0.2%減で、コンパックを買収したにも拘らずパソコンも同3.0%減という低迷から脱していない。HPのカーリー・フィオリーナCEOは、明白な合併効果を見せなければ再び株主から強く批判されるという危機感をつのらせている。

抜本的組織改革に取り組む

 このためフィオリーナCEOは03年12月に、04年中盤までに抜本的HP組織改革を完了させると社員にメールで通知した。HPをIBMと比べた時、そのチャネルプログラムが大きく見劣りするのは否めない。このチャネル政策の優劣がIBMとの差が広がる大きな要因でもある。合併会社であるためHPチャネルは、旧コンパックを中心としたパソコンチャネルと、サーバー、ストレージを中核商品とするエンタープライズシステムチャネルが併存するという矛盾を抱えたままできてしまった。フィオリーナCEOはいよいよ、この不整合の2系統チャネルを統合することを決断し、このチャネル戦略を中心とする組織改変に取り組む。

 さらにIBMは既に全世界で、自社直販とパートナーのテリトリーを売上高あるいは従業員数による企業規模で明確な線引きを完了させ、直販とパートナーの競合を完全に排除している。これに対しHPチャネルは、HP直販との競合が日常茶飯事となっている。従ってHPの見込客では、直販と複数チャネルが入り乱れるという現象が目立ち、顧客からの不満の声も大きくなった。チャネル問題は極めて難しい。しかし、HPの現状はもはや放置しておくことはできない。

 このためフィオリーナCEOは、ダブルチャネル政策を単一化し、実力者のエンタープライズシステム担当のピーター・ブラックモア上級副社長の管轄下に置くことを決断した。これでHPのチャネル戦略は一本化されるが、直販との競合が排除されるわけではない。HPでは旧コンパック直販がSMB(中堅・中小企業)までをカバーしていたため、合併してもテリトリーの区分けができないできた。

 この区分けはしばらくお預けとして、直販とパートナーの営業ルールを厳正にして、お互いに相手客を奪うことが減るような政策を推進する。ブラックモア上級副社長のもとでチャネルとの協業を推進するデビッド・ブース副社長は、「われわれはHP直販の常軌を脱した行動に目を光らせ、チャネルが安心してビジネスができるように配慮することを誓う」と語る。しかし「精神論では直販とチャネル行動の矛盾は解決できず、フィオリーナCEOは株主説明に苦労し続ける」というのがウォール街の見方だ。(中野英嗣●文)

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