企業のIT調達モデルを変える デルの挑戦と死角

<企業のIT調達モデルを変える デルの挑戦と死角>2.超えられないデルの壁

2004/01/12 20:43

週刊BCN 2004年01月12日vol.1022掲載

 法人向けパソコンの価格はあってないようなものだ。台数がまとまれば通常、パソコンメーカーは大幅なディスカウントを断行する。多くのメーカーはパソコン専業ではない。利益を稼げる商材とパソコンを組み合わせて顧客に販売する場合なら、「パソコンの価格は原価でも構わない」という営業上の判断も珍しくない。しかし、ハードでしか利益を稼げないデルは、基本の価格競争力で抜きん出ている。平たく言えば、安く売りながら、しっかりと儲けられる体質だ。(坂口正憲(ジャーナリスト))

 ある関係者の話によれば、年間約1000台のパソコンを購入するある顧客に対して、デルは粗利益20%以上を確保している。優良ケースの一例という。デルが米本社からどのような価格でハードを調達しているかは不明だが(一般的に外資系コンピュータベンダーは日本法人に向けては、他の国より高い価格で製品供給する)、販売会社である日本のデルが20%以上の粗利益を確保している。しかも、相手は年間1000台を購入する大口需要家。通常で考えれば、パソコンメーカー間の激しい営業合戦が考えられる。そこで競り合った結果、残ったのが20%以上の粗利益である。

 それだけ元々の製造原価が低い。販売管理費も低いデルのことだから十分な営業収益が残る。大口需要家に向けては、激しい値引き合戦の末、メーカー、販売会社(同一の場合も多い)の双方とも数%の粗利益しか取れず、営業赤字になる他のパソコンメーカーとの大きな違いである。そして、さらに他のパソコンメーカーが利益を度外視しても、デルが提示する価格に並ぶことができない“価格構造”がある。

 ある精密機械メーカーの情報システム担当者は、デルからパソコンを調達する理由をこう説明する。「パソコン本体の価格は、デルが提示した見積価格に、国産メーカーは合わせてくれる。ただ、デルのように、その料金内でオンサイトサポートを付けてくれるように要求すると、どうしても割増料金が発生してくる」デルが扱う多くのパソコンには、3年間の翌(営業)日オンサイト保守が標準添付されている。これが他のパソコンメーカーとデルを分ける大きな分岐点になる。次回は、その構造を分析していく。
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