WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第189回 HP、利益重視で直販に走る

2004/02/09 16:04

週刊BCN 2004年02月09日vol.1026掲載

 2003年10月の年度末決算を終えてからヒューレット・パッカード(HP)のカーリー・フィオリーナCEOは再三、利益重視のため直販セールス重点施策をとると発言している。HPはこれまでも戦略が不安定で、直販重視とチャネル販売調整で戦略が揺れ続けてきた。米HPチャネルは再度、HP不信を強めているようだ。

チャネルからは非難の声

 HPと競合するIBM決算を比べると、HPの粗利益率での弱点が浮きぼりになる。同年のIBM粗利益は37%なのに対し、HPは10ポイント低い26%にとどまる。これが出発点となる損益でIBM純利益は9%であるのに対し、HPは3%強と大きな格差が出た。フィオリーナ会長は、年次決算説明会で次のように語った。 「HP売上高は前年比1%増とほぼ横ばいだったが、損益は前年の赤字9億ドルから、今年は25億ドルの黒字となった。これは経費削減効果もあるが、直販が勢いをもったので粗利益が2ポイント近く上昇したことが大きい。HP直販力を、特に米国ではさらに強力にするよう社内に指示した」

 HPの最高財務責任者(CFO)、ボブ・ウェイマン氏は次のように説明した。「粗利益がIBMに比べて低いのは、個人向け商品の利益率が極めて低いからだ。これに対し企業向けでは、直販による利益が、チャネル販売とは比較できない程高い」しかし、HPの直販重視戦略は全米2万社のチャネルパートナーから手厳しく批難されている。多くのチャネル経営者は、「デルを勢いづかせた直販をまねるHPは、自社に全世界10万社近いパートナーがいることを忘れており、これは必ずHPに強力な逆作用となってはねかえる」という。

 HPの大手チャネルのアバンティシステムのヘンリー・アーネス会長は、「わが社のセールスに自分の顧客情報がHPに流れないよう厳命した。顧客を奪われて、HPを非難しても何の役にも立たないと社内で話した。当社のHP担当との関係がまずくなっても、HP社員とは距離を置かざるを得ない」と語る。HPが特に直販重点とするのはコンパック時代からのパソコンと、エンタープライズ商品だ。HPの主力、プリンタの95%はチャネル経由で、特にチャネルコンフリクトは起きていない。デルもHPユーザーを標的にしているので、特にHP直販がチャネルから奪った顧客への侵入口を探しているようだ。

 あるHP系チャネル経営者は匿名で次のように語った。「当社は過去2年で約30社の顧客をHP直販に奪われた。しかし、奪われた顧客の60-70%は次の機器追加ではデルにもっていかれている。チャネルからHPが奪った客は、HP直販提示の価格につられただけだ。従ってHP直販より安いデルへ移るのは当然だろう。またHPがチャネルから奪った客は、HP社員との関係も浅いので、デルは狙いやすい」 「このような不評もフィオリーナCEOの耳には入っているが、同CEOは目先利益でIBMを追うことを株主から迫られているのだろう」と、メリルリンチのウォール街アナリスト、トム・ミラー氏は分析する。(中野英嗣●文)

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