米国流通最前線を行く

<米国流通最前線を行く>第6回 J&R ローカル色を生かした経営

2004/03/15 20:42

週刊BCN 2004年03月15日vol.1031掲載

 ニューヨーク・マンハッタンのダウンタウンに店を構えるJ&Rは、チェーン展開をしておらず、事実上の単一店舗での営業を行っている。単一店舗ということで、一見取るに足らないかのように見えるが、実は大手チェーンにとって強敵となっている。J&Rは、強大なライバルに対抗するために、地元密着店舗として数々の独自性ときめ細かさ、機敏性を生かした販売で、大手家電量販店に対抗している。ニューヨーク都市圏での異端児、J&Rの秘密を探る。(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文)

各種キャンペーンで顧客を獲得

■1ブロックに複数の売り場

 J&Rはこれまで取り上げてきたような大規模チェーンではない。複数の売り場をマンハッタンのダウンタウンの同一ブロック内に構えるだけである。従って、いかに人気店といえども、その規模や売り上げは大手チェーンとは比較にはならない。しかし、ニューヨーク市では確固たる地位を築いている。その秘訣はローカル色を生かした経営であり、その裏には高度で緻密な戦略が見え隠れする。

 J&Rは1971年に現在と同じマンハッタンのダウンタウン地区で創業した。創業当初は同エリアに勤務する裕福な会社員をターゲットに、高級オーディオ機器を販売していた。80年代に入ると取扱商品の中心はビデオテープレコーダーの普及などとともに変化していき、その後はコードレス電話やCDプレーヤー、近年ではパソコン関連を中心とする各種のデジタル機器を多く扱うようになっていった。

 J&Rは同一ブロック内に複数の売り場を持つ。それぞれの売り場は取扱商品ごとに分けられ、これは日本の大型家電販売店がフロアごとに取扱商品を分けているのによく似ている。単一店舗なので随時的確な商品構成を維持でき、今ではニューヨーク随一の人気店である。創業者のジョーとロッシェルのフリードマン夫婦は、自分たちの結婚資金を投じて起業した。家族経営を維持しており、現在でも株式を公開しておらず、経営数字などは一切発表されていない。

■特徴はアフェリエートプログラム

 J&Rの各売り場はそれぞれ、パソコン/家電/オーディオ/ソフト類、と明確に取扱商品が分かれている。同社の特徴は、アフェリエートプログラム(各種の提携)だ。特にアップルコンピュータとは親密で、発表と同時に大人気となったiMacをいち早く店内に並べて人気を煽ったり、現在でもさまざまなキャンペーンを行っている。00年のクリスマスシーズンには、3000ドル分以上のソニー製品購入者にプレイステーション2を無料進呈したりと、あの手この手で顧客へのアピールを続けている。

 この他にも通信販売での提携や期間限定での販売、さらにはカタログ販売やメーカー公認の取扱店としての契約を各社と結ぶなど、数多くの提携を実現しており、アフェリエートプログラムは同社の重要な戦略となっている。

 同一エリアに複数の売り場を持つことで、自社内で複数のマーケティングを行えることも有利な点だ。デジタルカメラを例に挙げると、ブロック東側にはカメラ専門の売り場があり、銀塩カメラとデジタルカメラの両方を取り扱っている。一方パソコン関連の売り場にもデジタルカメラを並べている。一見無駄な重複にも見えるが、それぞれは商品構成や価格帯を微妙に変えている。カメラ専門の売り場では、安価なお買得品を中心にビギナーでも扱い易い入門機器などを揃え、パソコン関連売り場では、パソコンとの接続などを考慮した各種の周辺機器も含め、やや高級品が中心だ。

 このように、顧客が「ワンストップ」でショッピングを済ませられるよう、いくつかの分野にまたがる商品を同時に比べたり、売り場を顧客ターゲットごとの商品構成にするなど、大手に一歩も引けを取らないマーケティングがJ&Rの特徴である。

■ニューヨークの名所の1つに

 単一店舗では商品の低価格化は難しいが、J&Rではたいした問題とはなってない。これは、商品構成を絞り込むことで仕入れ交渉が容易なこと、消費税が高額なニューヨーク市内では少々の低価格化ではそのメリットが目立たないことなどが挙げられる。いずれも地域密着ならではの優位点である。

 ダウンタウンに位置するJ&Rは、01年のテロ後は一時期営業停止を余儀なくされた。しかし、同地域で消費税免除の特別期間が設けられた際には、遠くニューヨーク州外からも買物客が殺到するなど、人気は高い。それを支える顧客サービスも好評で、同社の広報は「わが社の成功は、顧客との長く継続された関係によるものであり、顧客サービスには十分な配慮を行っている。多忙なニューヨーカーには電話やオンラインでの問い合わせにも対応しており、これは我々の大きな特徴だ」と述べた。毎週末にはニューヨーク・タイムス紙に大きな広告を掲載し、これもニューヨーカーにはおなじみとなっている。

 J&Rは、単一店舗/エリア特化の充実した品揃え/格安感/地元密着の親近感/都市部ならではの高級感、と一見相反する要素を備えている。これは、ともすれば販売戦略の焦点が曖昧になりかねない。しかし、同社はその堅実な経営と緻密な戦略、的確な商品構成の実現により、結果として確固たる地位を築いている。

【会社概要】
■ 企業名:J&R エレクトリック
       (J&R Electronics,Inc.)
■ 社長:ジョセフ・フリードマン(Joseph Friedman)
■ 企業形態:株式非公開
■ 決算月:6月
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