テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>33.UHF帯電子タグ

2004/03/22 16:18

週刊BCN 2004年03月22日vol.1032掲載

 ICタグの実用化に向けた動きが加速してきた。経済産業省の委託事業として、今月からUHF帯ICタグを使って実際の工場、物流倉庫、店舗での実証実験がスタート。プライバシー保護ガイドラインの整備も進んでおり、国際標準化の動向をにらみながら本格導入の気運が一気に高まりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

本格導入気運高まる

 今年2月、世界最大の小売り企業、ウォルマート・ストアーズが主要取引先にICタグの導入を求める、とのニュースが流れ、ICタグ実用化が間近に迫ってきたことを強く印象付けた。日本でも昨年8月に小泉首相がICタグを皿に埋め込んだ回転寿司店を利用して話題となったが、「最大の狙いはサプライチェーンに利用して流通を活性化すること」(山崎剛・経産省商務情報政策局情報経済課係長)だけに欧米の小売り企業でICタグ導入が具体化してきた衝撃は大きかった。  日本では、JR東日本の乗車券無線ICカード「スイカ」に使われている電磁誘導方式では実績があるものの、店舗や倉庫での在庫管理などでICタグを利用するのに適しているUHF帯の利用で出遅れていた。UHF帯(300-3000MHz)のなかでもICタグに割り当てる帯域としてISO規格になった860-930MHzに日本国内では空きがなく、空白帯域の950-956MHzをICタグ向けに開放する検討が総務省で進められ、先月最終報告がまとまったところ。ISOでもISO規格の上限を960MHzまで拡張することを了承済みで、総務省でも04年度中に制度を整える予定だ。

 経産省では、昨年12月からUHF帯ICタグの実証実験をスタート、第1フェーズで電波暗室内での技術データ取得を行った。ICタグの利用帯域は欧州868MHz、米国915MHz、日本950MHzと異なるため、実験では米国向けICタグを日本向けICタグ読み取り機械で読み取るなどの検証が行われた。その結果、米国での実績に劣らない高い読み取り精度が得られることが判ったという。

 ただ、帯域の違いを乗り越えることは可能でも、エアインターフェイスなどの技術基準の標準化が実現しなければ、異なるメーカー間で相互読み取りは実現できない。経産省では、国際的に影響力のあるEPCグローバルとISOに働きかけて今年中に標準の一本化をめざすとしているが、いつ、どのような形で標準化が実現するかがICタグ普及の最大の関門。それに向けてUHF帯ICタグの技術的な課題をクリアしておく必要がある。

 ICタグを流通分野で利用するうえで懸念されているのがプライバシー保護だ。昨年12月に経産省から、今年2月には総務省からそれぞれプライバシー保護のガイドライン(案)が示されたが、最終的には政府で一本化する方向で調整が進められる見通しだ。プライバシー保護ではすでに個人情報保護法が制定されているが、「ICタグのプライバシー問題は、個人情報保護法に重なる部分もあるが、カバーできない部分が大きい」(山崎係長)との認識。

 ICタグは5円以下の低価格での提供をめざしており、セキュリティ機能は想定されていない。ICタグそのものに記録する情報は単なる商品情報で個人のプライバシー情報が直接記録されなくても、それと個人が結び付くことでプライバシー問題が発生する。このため経産省のガイドライン(案)では、(1)ICタグが装着してあることの表示などの義務付け、(2)電子タグの読み取りに関する消費者の最終的な選択権の留保──などが盛り込まれた。ICタグは、サプライチェーン段階だけでなく、消費者側が使用し廃棄されるまでのライフサイクルで利用することも可能だけに、今後はそうした視点も加えていく必要があるだろう。

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