OVER VIEW

<OVER VIEW>緩やかな成長期に入った2003年米国IT企業決算 Chapter5

2004/03/29 16:18

週刊BCN 2004年03月29日vol.1033掲載

 世界UNIXサーバーでトップの座を維持してきたサン・マイクロシステムズは、業績低迷が長く続き、直近でも赤字から脱却できていない。サンはプロセッサ、OSなどを自社開発する垂直統合経営であるため、UNIXローエンドがLinuxに奪われ、売上高が激減しても研究開発費を大きく削減することができない。このため売上高に占める同比が同業IBM、HPの3倍にも達している。即ちサンの苦境が続く原因は、IT不況だけでなくサン経営モデルが市場変化に追随できていないことだと指摘できよう。(中野英嗣)

サン、高い研究開発費率が苦境の原因

■売上高が激減し続ける、サンの決算

photo 世界UNIXサーバー市場で90年代後半から世界のトップシェアを誇ってきたサン・マイクロシステムズが長い間、業績低迷に歯止めがかかっていない。2003年6月期決算でもサンは買収企業の営業権償却など21億2500万ドルの巨額費用を計上したため、営業損益で27億2400万ドルの赤字となった(Figure25)。

 これら特別費用を除外しても同年の営業損失は2億2400万ドルで、サンの赤字体質は続く。世界エンタープライズ市場を相手にするIBMは03年、10%近い売上増によって利益も倍増した。コンパックコンピュータ買収で低迷したHPも03年は1%の売上増、損益は黒字に転換した。

photo 世界的にIT市場が回復基調にあるなか、エンタープライズプレーヤーではサンだけが取り残されている。サンは90年代後半から01年にかけて急成長した。00年売上高前年比は33.2%増となったが、01年に売上伸長は16.1%となり、そして02年にはマイナス31.5%と売上高は急低落した(Figure26)。

 このサンの急上昇を見て、当時IBM会長であったルイス・ガースナー氏は、「サンの経営は急峻な欧州マッターホルン型で株主から歓迎されるモデルではない。これに対しIBMは成長時も低迷期も緩やかな変化にとどまるプラトー(平原)型経営である」と語っていた。

 ガースナー氏の語る通り、IBMの売上高変化は常に1ケタ台で、サンに比べると安定している。IBMも00年中盤からの世界的IT不況の直撃によって業績は低迷した。IT不況もあるが、サンの売上高激変や赤字が続くことは、市場変化だけでは説明するのが難しく、サンの経営モデル自体の分析が必要となる。

■市場変化に経営モデルが追随できていないサン

 サンは世界有力ITベンダーのなかでは唯一、インテル、マイクロソフト技術によるウィンドウズパソコン、インテルベースのウィンドウズサーバーを手掛けないベンダーである。

 サンは自社でプロセッサSPARCと、UNIX OS「Solaris」を開発する典型的垂直統合ベンダーだ。IBM、HP、そしてわが国の富士通以下の有力ベンダーも垂直統合商品に加え、水平分散型によるウィンテル商品の併存モデルだ。サンは自社技術によるUNIXサーバーとワークステーションで世界トップシェアを獲得した。

photo しかしワークステーション需要は世界的に落ち込み、UNIXサーバーのローエンド市場は台頭してきたLinuxインテルサーバーにその市場を急速に奪われた。またハイエンドUNIXサーバーでも、IBM、HPがサンからシェアを奪った。

 このように、サンが垂直統合で手掛けたUNIX市場は世界的に大きく変革しつつある。このUNIX市場の変化にサンモデルが追随できていないことが、サン低迷の大きな要因といえるだろう。IBM、HPを含めたエンタープライズベンダーの経営指標を比べると、サンの問題点が明確になる(Figure27)。

 サンは総利益率が42.6%と突出して高い(03年12月)。しかし販管費率も高く、とくに垂直統合に固執し続けるため、研究開発費率はIBM、HPの3倍に達する。また売上高減少が続くサンは、ITサービスは順調に売上高を伸ばしているものの、ハードやソフトの製品売上高減少がとくに激しい。

photo 03年6月期と売上高ピークの01年を比べると、サービス売上高は12.6%増となっているものの、製品売上高は48.1%減でピーク比半減状態だ。この結果、自動的にサン売上高に占めるサービス構成は年々高くなり、03年12月の半期決算では34.0%にも達している(Figure28)。

 製品売上高激減によるサービス比率上昇では、サンは危機から脱出することはできない。

■高い研究開発費率が足かせに

 サンは01年をピークに売上高が急激に減少し続けている。しかし、垂直統合であるサンは売上高が減少しても研究開発費を急速に削減することはできない(Figure29)。

photo サンが誇ってきた64ビットMPUにも、インテルItanium2、IBM Power、AMD Opteronが出現し、サン独走を許さなくなった。売上高ピーク01年と03年を比べると、売上高は37.3%も減っているにも拘わらず、研究開発費削減はわずか8.9%にとどまっている。

 03年6月の売上高研究開発費率は16.1%、03年12月期にはさらに当比率が17.3%にまで高まっている。サンは稼ぐ総利益の37.2%を研究開発に投じている。上昇気運にあった90年代後半、サン総利益率は50%を越え、しかも研究開発費率は10%台を維持できたため、サンは巨額黒字(利益ピーク期00年営業利益23億9300万ドル、売上高利益率15.2%)を計上していた。

 このサンが02年以降、売上高が落ち、さらに総利益率も10ポイント以上低落しても、研究開発費がこれに見合うよう削減されていない。サン経営では、垂直統合モデルに必要な高い研究開発費が最大の課題である。このことはサンも十分承知のうえ、インテル32ビットによるLinuxサーバーも販売していたが、当市場はデル以下の強者がひしめく。サンはサーバーはすでに64ビット時代となったことを宣言していたので、インテル32ビットサーバーは暫定処置であった。このためサンは64ビットMPUで量産型で安いAMD Opteron搭載のLinux/Solarisサーバーも発売した。

photo サンの現在の苦境要因は、売上高ピーク比の直近決算数値を比較すると明確になろう。03年6月に売上高は37.3%減、総利益は39.8%減少しているが、販管費率減少は25.1%、そして研究開発比削減もわずかにとどまる。売上高では日本市場が45.4%と大きく減っていることも、わが国におけるサン地位低下を裏付ける(Figure30)。

 04年3月には米国格付け会社スタンダード&プアーズはサンの格付けをこれまでの「トリプルB」から、投資不適格クラスの「ダブルBプラス」へと2段階引き下げた。米国投資筋もサン経営に不安感を強めている。とくにUNIX市場はLinux台頭の影響を直接受けているので、サンは経営モデル自体を大きく変えるべき時期にあるだろう。
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