拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略

<拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略>第1回 プロローグ

2004/04/05 16:18

週刊BCN 2004年04月05日vol.1034掲載

老舗お菓子屋も物流改革へ

 ここに富士通が昨年6月に設置した中堅市場ビジネス本部が作成した1枚のCD-ROM「中堅企業のためのIT活用ヒント集」がある。この中には、興味深い導入事例が満載されている。

 JRのキヨスクなどで売られる東京下町の銘菓「雷おこし」の製造販売を行う大心堂雷おこし(村上康範社長)。この会社は最近、製菓の物流網を大幅に改革した。「古代の味を維持しつつ、新たな顧客ニーズに対応する」(谷菊夫・業務部長)と、CD-ROM内で語っている。

 このほかにも、CD-ROMには宮城県の老舗酒蔵や広島県の畳製造業者など、ITとは無縁と思われていた業界・業種の事例が含まれている。今後、富士通が中堅・中小企業ビジネス(SMB)市場に向けて攻勢をかけるうえで、今後の参考にするために、“シンボリック(象徴的)”な存在と位置づけている事例だ。

 しかし、残念ながら、大心堂雷おこしがいつ、どのように、誰が、物流改革のために手を下したかは明確にされていない。新連載「拓け、中堅・中小企業市場」では、こうしたユーザー事例をもとに、導入した企業の社長やIT担当者、システムを受注したメーカーや1次店、2次店、システムインテグレータなどに取材し、顧客開拓をどう仕掛け、どのように受注に至ったかを克明にレポートする。

 大手ITメーカーはここ数年、大企業向けIT市場が一巡したと見て、SMB市場への参入を強化している。富士通の中堅市場ビジネス本部では、「もともとは得意分野だったが、低価格化への対応など、総合力で対応する必要が出てきた」と、本部設置の理由を説明する。

 そもそも、国内でSMB市場の“火付け役”となったのは日本アイ・ビー・エム(日本IBM)といわれている。同社は、SMB市場開拓の先兵となる「1次店」の登録に厳しい基準を設け、数を絞ってきた。これは日本IBMが技術・セールス支援を効率良く行うためだ。低価格化への対応やSMB市場で多い「スピーディにシステムを構築する」ニーズに対応し、数多く案件をこなす体制を整えることが目的。

 最近は、大企業向けシステム構築に強みを持つ日立製作所や三菱電機ですら、「保守を拡充して、新規獲得を増やす」(三菱電機)として、“ドブ板戦略”を実践し、SMB市場への傾注を表明するなど、大手ITベンダーが続々とSMB市場をターゲットにし始めた。

 しかし、大手ITメーカーの直販ではSMB市場は切り拓けない、といわれる。中堅・中小企業は、IT導入を考える際、「身近なシステムインテグレータを探す」ためだ。地域の中堅システムインテグレータやリセラーなどとのチャネル戦略の在り方が、SMB市場で優劣を決するといっても過言ではない。

 次号からユーザー事例をもとにSMB市場開拓の戦略の実際を紹介していく。(谷畑良胤)
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