コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第72回 総集編(2)

2004/04/12 16:04

週刊BCN 2004年04月12日vol.1035掲載

 地方の市町村が情報化を進めるうえで、ネックとなっているのが財政難と市町村合併への対応だ。財政難で計画を先送りするケースが続出しているだけでなく、市町村合併への対応で情報システムの統合という重荷がかぶさっている。合併特例法の期限は2005年3月末までと、あと1年を切っている。そのなかで新市のスタートに合わせて統合された情報システムを構築できる市はどれほどあるだろうか。(川井直樹)

合併と財政難の狭間で喘ぐIT化 合併特例法の期限切れまで1年

■情報システム再構築に苦労した西東京市

 政府は約3300あった自治体を、合併により1700程度まで削減することを目論んでいる。合併特例法は2005年3月末までの時限立法だが、この期間に合併すれば普通交付税の継続措置とともに、合併特例債の発行により、公共施設の建設資金や地域振興基金に充てられるというメリットがある。

 85年以降、95年までの10年間で市町村合併件数は18件。合併特例法が施行された99年7月以降の合併は04年3月末までに41件にのぼる。さらに04年4月1日には、阿賀野市(新潟県)、東御市(長野県)、伊豆市(静岡県)、御前崎市(同)、京丹後市(京都府)、養父市(兵庫県)、三次市(広島県)、府中市(同)、呉市(同)、四国中央市(愛媛県)、西予市(同)の11市が誕生した。

 市町村合併は、研究会から任意協議会、法定協議会を組織し合併に至る。情報システムに関わる検討は、早ければ任意協議会の段階で電算部会として、合併する自治体の電算担当者などを集めて発足する。合併協の担当者の1人は、「情報システム構築には最低でも1年かかるだろう。しかし、新市の各課の業務改革や縄張り争いで、実際に電算化の計画を作るのは後回しになっているケースが多いと聞く」という。

 また、他の電算部会のメンバーは、「他の業務部会の議論が遅いのは分かりきっているので、水面下で電算部会で対応策を検討してしまっている」と笑って言う。業務改革を支える情報システム側から、改善すべき姿を提案してしまおうという算段だ。

 しかし、情報システムメーカーの自治体担当者には、それでも頭が痛い話。受注の内定をもらい、“ボランティア”で電算部会に協力しながらシステム設計を進めてきても、合併が破談となれば「マンパワーをかけて1円にもならない」(メーカー担当者)というケースも実際にあった話だという。

 九州のある県の大手ベンダー支店長によれば、「合併決裂の可能性を否定できない以上、ある程度補償を盛り込んだ契約を交わしている」という対策も講じている。

 合併によるシステム統合は1+1を2とするような簡単な話ではない。01年1月21日に旧保谷市と旧田無市が合併した西東京市では、ともに富士通製のメインフレームを基幹システムに使いながら、「お互い合わせてみたら、全く異なるシステムを構築していた」(西東京市情報推進課)という。

 旧保谷市でも旧田無市でも、それぞれ業務に合わせてカスタマイズを行ってきたためだ。合併を機に、リース切れとなるメインフレームを大型のシステムにリプレース。その一部で新市のシステムを構築しながら、旧田無市、旧保谷市にそれぞれあるシステムを併用稼動させた。「両市のシステムの相違点を数え上げたらキリがないほど。基幹システムだけでなく部門サーバーも同様で、妥協しあって合わせていくしかない」と、西東京市情報推進課の担当者は合併による情報システム再構築の苦労を語る。

 ベンダーも同様だ。当初は自治体IT化と市町村合併をセットに、自治体ビジネス拡大の好機と捉えていた。しかし、昨年の秋以降は、「以前は電子申請・届出などに対応し、福祉や建設といった様々な役所の業務を電子化する“豪華版”を筆頭にいくつかのパターンを作って提案していた。今では、新市のスタートに必要な最低限のシステム統合にするよう説得する状況」(大手メーカー自治体担当)というように様変わりした。

■電子化そのものが目的化する例も

 追い討ちをかけるのが自治体の財政難だ。メインフレームやオフコンベースの基幹システムを、オープンソースやウィンドウズによるクライアント/サーバー(C/S)システムへ移行を検討する自治体は多い。財政難を少しでも軽減するために、膨大な保守費用のかかる大型システムから、負担の少ないシステムに替えようという考えだ。それにしても初期投資はかかる。

 さらに、政府が進める「e-Japan計画」に沿って自治体の電子化も図らなければならない。様々な補助金施策も打ち出されているが、全国の自治体の“渇き”を癒すほどではなく、一部のIT先進地域に集中的に投下されている、という批判もある。

 北海道の深川市では、01年度から03年度まで、総務省の「電子自治体推進パイロット事業」に選定され、実証プロジェクトに携わってきた。深川市総務部によれば、「北海道の中央部に位置する深川市は面積も広く、さらに合併により広がる可能性がある。雪の深い深川市では、電子申請などはどうしても実現したい情報化政策だ」として、総務省のプロジェクトに手を挙げたという。

 しかし、プロジェクト期間は04年3月末で終了した。「今まで使用していたサーバーのリース費用が、今の深川市には負担することができない」と、結局はプロジェクトに参加して電子申請の“実験”をしてみた、という形だけで終了した。

 01年度からのこのプロジェクトに参加したのは、三鷹市や横須賀市、大垣市、岡山市など、IT先進自治体としてすでに勇名を馳せる自治体ばかり。これら自治体では、プロジェクトで投下された資金を有効に使い、住民サービスの向上に役立つような地域のIT化に役立てている。

 費用負担に苦しむケースは深川市だけではない。ICカードの普及事業を進めながらも、住民基本台帳カードが登場した結果、既存のICカードの利用で悩む自治体など、「税金の無駄遣い」とも思えるようなIT化事業の失敗は枚挙に暇がない。

 なぜこのようなケースが後を絶たないのか──。日立総合計画研究所の石井恭子副主任研究員は、「本来、自治体の電子化が目指すべきものは、地域の活性化や事業構造の転換、住民サービスの向上なのに、それを見失っているから」と切り捨てる。自治体が「電子化そのものを目的化してしまっている。電子化すれば、全てが解決するような錯覚に陥っている」と厳しく指摘する。
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