テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>36.評価専門調査会中間報告(上)

2004/04/12 16:18

週刊BCN 2004年04月12日vol.1035掲載

政府のe-Japan戦略の成果を民間の立場から初めて総合的に評価した評価専門調査会(庄山悦彦座長=日立製作所社長)の中間報告がまとまった。過去3年間の取り組みをどのように評価し、今後の戦略にどう生かしていくのか。まずは6月に策定される予定のe-Japan重点計画-2004で問われることになる。(ジャーナリスト 千葉利宏)

利活用と構造改革の遅れ指摘

 今回の中間報告は、調査会発足後、わずか3か月という短期間でまとめられた。毎年つくられている重点計画の策定作業に間に合わせるためだが、まずはe-Japan戦略の遂行で重要な「計画・実施・評価・改善」のPDCAサイクルが確立され、動き出すことになった。今後も半年ごとに評価報告書を作成することにしており、次回はe-Japan重点計画-2004や毎年8月に出揃う各府省の概算要求に盛り込まれた政策内容も踏まえたうえで2回目の報告が行われるとみられる。

 中間報告は「全体評価」と「重点評価」の大きく2つで構成。評価対象は2001年の戦略Ⅰに掲げられている「基本的考え方」4項目、03年の戦略IIの「実現したいこと」22項目(重点7分野の17項目+横断5分野の5項目)に、電子政府・電子自治体と書面一括法の2項目を加えた28項目とし、「重点評価」では調査会からの指摘で選んだ「電子政府・電子自治体」、「ブロードバンド・ユビキタスネットワーク」、「教育・人材」、「医療」の4項目の評価を行った。

 全体評価の部分では、インターネット常時接続の早期実現を評価する一方で、利活用が遅れていることを指摘。IT戦略がめざす社会全体の構造改革の観点からも、通信などIT分野での規制改革は進展したが、社会全体では一部にとどまっていると評価した。なぜ、ITの基盤整備が進んだにも関わらず、利活用や構造改革が遅れているのか。その原因は、PDCAの最初のP(計画)の部分にあると分析する。特に最大の問題は、国民が求める成果(アウトカム)目標と、行政担当者がめざしている施策実施(アウトプット)目標が乖離している点だというのである。

 e-Japan戦略では、調査会が評価対象とした戦略Ⅰの「基本的考え方」や戦略Ⅱの「実現したいこと」の中にアウトカム目標が掲げられている。しかし、アウトプット目標との「違いを明確に意識することなく、両者を混在させてきた」(中間報告)。戦略に基づいて策定される重点計画も、アウトカムとの整合性を意識しないままにアウトプット目標が並べられており、「放置すると税金や政策資源の無駄遣いとのそしりを受けることになる」と厳しい評価だ。

 しかも、縦割り行政の弊害が、e-Japan戦略にも表れ、「現状の重点計画は、各府省から提出された施策が相互の調整なく羅列されている感がぬぐえない」と、IT戦略本部の調整力不足を指摘する。それは共同利用や標準化の遅れとなって顕在化しており、システム投資のコスト高などにつながっているというわけだ。「今、国家戦略としての初心を取り戻すことが最も重要である」――全体評価の最後の提言では、IT戦略と重点計画にアウトカム目標とアウトプット目標の概念導入を求め、“初心”の重要性が強調された。00年11月に公表された最初の「IT基本戦略」には、戦略に対する強い決意が示されていた。「革命の常として、工業社会から知識創発型社会への変化は不連続であり、その過程では将来の繁栄を実現するための痛みにも耐えなければならない。われわれ国民一人一人は、明治維新、終戦といった過去の時代への幕引きがない中で、自ら素早く社会構造の大変革を実行することが求められている」

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