企業のIT調達モデルを変える デルの挑戦と死角

<企業のIT調達モデルを変える デルの挑戦と死角>17(最終回).デル王国は本当に盤石か

2004/04/26 20:43

週刊BCN 2004年04月26日vol.1037掲載

 この連載も今回で最終回となる。これまで米デルやデル日本法人の動向を見てきて感じたのは、非常に“足腰の強い”企業ということである。健全な財務体質、営業利益率8%台と収益性が高く、ぶれないビジネスモデル。そして、若くアグレッシブなマイケル・デルCEOと老練な実務家ケビン・ロリンズCOOの二頭統治は、絶妙のコンビネーションだろう。(坂口正憲(ジャーナリスト))

 デルは今でも快走を続けている。同社が4月初旬、アナリストミーティングで明らかにしたところによれば、2005年1月期の第1四半期の売上高は114億ドルに達する見込みだ。これは前年同期比20%増になる。成長率は前期より高くなっている。

 デルの当面の最大ライバルは米ヒューレット・パッカード(HP)になるが、HPは03年10月期の売上高が前期比1%増と業績が伸び悩んでいる。営業利益率は4%とデルの半分で、その74%はプリンタ事業で稼ぐ。HPが現在の事業構造を改善するには、稼ぎ頭のプリンタ事業を温存しながらも、利益率が比較的高い大型サーバーやITサービスを拡大するしかないだろう。今でこそ、パソコンおよびパソコンサーバー事業でデルと消耗戦を続けているが、はたしてそれがどこまで続けられるか疑問である。

 HPがパソコンおよびパソコンサーバー事業の手綱を少しでも緩めれば、世界レベルでデルと戦えるベンダーはなくなる。後はアジアや欧州などローカル市場での局地戦が残るのみである。デルが究極の目標としている「パソコンで世界シェア40%」の実現も現実味を帯びてくるかもしれない。デル王国が盤石かと問われれば、筆者はイエスと答えるだろう。今のところ経営基盤を揺るがすほどの死角は見えない。

 ただし、盤石な王国を築いたがゆえに、環境が大きく変化した時、デルが俊敏に適応できない危険性を感じないわけではない。93年に再建請負人としてルイス・ガースナー氏がCEOに着任するまで、深刻な経営難に陥っていた米IBMのように。デル王国は、今のパソコン文化と共に成り立っている、その文化は10年先も今のままであり続けるか。それは誰にも分からない。読者の方には、4か月にわたりお付き合い頂きまして、本当に有り難うございました。
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