情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第15回 福島県会津若松市(上) 不登校解決にもITを活用

2004/08/23 20:43

週刊BCN 2004年08月23日vol.1052掲載

 福島県会津若松市がインターネットを活用して市民に利便性を提供するために力を入れているのが学校教育だ。文部科学省に構造改革特別区域計画を申請。同省が2003年5月23日、「会津若松市IT特区」に認定したことを受け、英語力アップを念頭に置いた「研究開発学校設置事業」、不登校児童生徒の学力に合わせた教材をインターネットで配信する「IT等の活用による不登校児童生徒の学習機会拡大事業」に着手した。「学校教育は教員が生徒と向き合うことで成り立つ」という信念を曲げずに、同市ではインターネットを最大限に活用することで学校教育の未来像を見い出そうとしている。(佐相彰彦)

「会津若松市IT特区」で英語力アップにつなげる

■英会話に慣れ親しむサイト

 会津若松市がインターネットを活用した英語教育を開始したのは03年7月3日から。03年度(03年4月-04年3月)は、中学生や高校生を対象に30回にわたって問題を配信。03年度末までに1440人の中学生、779人の高校生が利用している。

 インターネットで配信する問題は、教材を発行する福島新教研や県立の会津大学などが協力して、中学校および高校の英語担当教員と教育委員会などが作成。問題の流れは、2人のインストラクターによる対話に関する問題が出題される。

 神田広幸・教育委員会学校教育課主幹は、「利用した中学生や高校生の英語読解力とリスニング力の向上を図るため、対話するインストラクターに外国人を起用した」という。「生徒がインターネットを通じて、いつでもどこでも学べる環境を作ることが、英語のコミュニケーション能力の育成につながっている」と自信をみせる。

 「英語に関心を持つ生徒が増えたという声を各学校の英語担当教員から聞く」と話すのは、英語教育サイトの作成を担当した教育委員会小中学校課の五十嵐徹氏。「実際に成績がアップした生徒も出てきているため、教員としても『スキルアップを図らなければならない』と、さらにレベルの高い授業を行おうという意識が高まっている」(五十嵐氏)と、市がサイトを提供した効果を挙げている。

 現段階では、サイトで問題を配信しているだけだが、今後は「インターネットを通じて生徒とインストラクターが直接対話でき、発音の仕方を教えたり、分からなかった問題をメールで質問できるようにするなど、双方向でコミュニケーションが図れるようなサイトに仕上げる」(五十嵐氏)計画だ。神田主幹は、「06年度以降は、大学センター入試でリスニングテストが導入される。さらにレベルの高い問題を用意し、サイトによる教育支援を強固なものにしていきたい」意向だ。

■不登校生徒の学力を向上

 会津若松市IT特区のもう1つの取り組みは、「IT等の活用による不登校児童生徒の学習機会拡大事業」だ。週3回(月・水・金)開かれる適応指導教室に通う児童・生徒の学習・相談支援として、IT活用による自宅学習日(火・木)を設け、指導要録上の出席日数とみなすものだ。e─ラーニングを提供するベンチャー企業と提携し、学習履歴型システム「e-ライブラリ」を構築した。

 市では、不登校の生徒が中学生で100人以上、小学生で30人弱いる。そのうち、適応指導教室に通う生徒数は10人程度という。神田主幹は、「不登校の生徒への指導については、心の問題などを解消するための指導だけでなく、進路の問題を視野に入れなければならない。その方法として、ITネットワークを活用した教育や環境を作ることが重要だ」と判断した。

 在宅学習が受けられるようになるためには、適応指導教室に参加しなければならない。「まずは、〝家から出る〟という意識を持たせなければならない」(五十嵐氏)からだ。適応指導教室でも、e-ライブラリを活用しており、生徒にIDとパスワードを配布。自宅に帰ってからもパソコンで学習が行えるというわけだ。

 e-ライブラリでは、教材のデータベースと生徒の個人学習データがサーバーに蓄積され、教材を各生徒の理解に応じて自動的に準備する仕組みになっている。指導者は、生徒の学習進捗状況や成績結果をウェブ上で管理することができる。

 神田主幹は、「生徒が学校に行かなくなる原因として最も多いのが人間関係の悩み。適応指導教室に加え、インターネットという双方向のコミュニケーションを取り入れたことで不登校の生徒が減少しつつある」と効果が出てきていることを挙げており、「不登校になってしまった生徒に普通の学校生活を送れるようにしてあげたい」と強調する。

 同システムで配信しているのは、国語、数学(算数)、英語、理科、社会の5教科。また、同システムを普通教育にも活用できるとして、会津若松市立第二中学校では実験的に同システムを活用した授業を行っている。この授業が生徒の学力アップにつながれば、08年度以降は市内のすべての中学校で活用することも検討している。
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