e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>1.e-Japanがもたらすもの

2004/09/06 16:18

週刊BCN 2004年09月06日vol.1054掲載

 e-Japan戦略も、当初の目標期限である「2005年」(年度)まで、残すところ1年半となった。政府がIT戦略本部を設置してわずか4年で、通信インフラや電子政府のサービスメニューもかなり整ってきたが、課題はどのように利活用を進めていくかである。最初から上手くいくとは限らない。利用者の声を着実に反映しながら利便性や透明性を実感できる制度やサービスに育てられるかが勝負だ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 「“抱き”がやりにくくなるという声はありますね」──。来年3月に導入される予定の不動産オンライン登記制度について不動産業界の反響を取材していると、業界関係者からこんな話が出てきた。“抱き”とは、登記による名義書換を行わずに、紙の不動産権利証だけを受け渡していく不動産取引のことで、不動産業者間での「土地転がし」の手法である。オンライン登記の導入で紙の権利証が廃止されるために、この“抱き”の手法が使えなくなる可能性があるというのである。

 「構造改革には痛みがともなう」と、小泉純一郎首相は以前、よく口にしていたが、利便性ばかりが強調されるe-Japanも実はさまざまな痛みがともなう。不動産オンライン登記では司法書士、電子申告では税理士などのビジネス縮小が懸念されてきたし、現在、準備が進んでいる自動車保有手続のワンストップサービスでも自動車ディーラーの手数料収入の減少が指摘されている。そうした痛みを乗り越えて利用者が使いたくなる制度やサービスを実現しなければならない。

 e-Japanが生んだ新しい仕組みとして3年前に動き出した電子入札を例に取ってみても、その影響は徐々に広がっている。公共事業の入札は、一般競争入札が原則なのだが、参加希望者が殺到すると資格審査や事務手続が煩雑になるなどの理由で指名入札が広く使われてきた。落札価格の上限となる予定価格も非公開とされ、結果的には談合や贈収賄が横行してきた。

 国土交通省では電子入札を導入した当初、指名入札や予定価格の非公開など従来の仕組みにほとんど手を付けなかった。しかし、横須賀市など地方自治体で電子入札を機に一般競争入札や予定価格の事前公表を導入する動きが広がり、公共投資削減による競争激化もあって予定価格を大幅に下回るダンピング受注が増加。ようやく先月になって国交省でも中央建設業審議会に専門委員会を設置し、入札制度改革に向けた本格的な議論を始めたところだ。

 新しい仕組みやシステムはさまざまな状況を想定しながら組み立てていくわけだが、いくら実証実験を行ったところで実際に動かしてみないと判らないことも少なくない。入札制度にしても、採算が取れないような安値で応札する業者がこれほど増えることなど想定していなかったはず。さらに利用件数が多い国税申告や不動産登記、自動車保有、旅券申請などの利活用はこれからが本番である。

 先日、近くの信用金庫の支店で手続きを行ったときのこと。住民票の写しが必要だったが、ダメを承知で顔写真入りの住基カードを見せて「代用できないか」と聞くと、本部に問い合わせて何とOKが出た。住基カードを取得して1年、「初めて役に立った」と感激したが、公的手続でも住民票が不要なのはまだ住基ネット端末が利用できる旅券申請のケースぐらいである。果たしてe-Japanが生んだ新しい仕組みやシステムがどのように利用されていくのか? e-Japanが描くIT国家の“あした”がどの方向へ向かうのか? 今回のシリーズのテーマとしたい。
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