e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>2.評価専門調査会-國領二郎慶大教授に聞く(上)

2004/09/13 16:18

週刊BCN 2004年09月13日vol.1055掲載

 e-Japan戦略に対する政府の取り組み状況を評価する評価専門調査会(庄山悦彦座長=日立製作所社長)が、今年3月に続き2回目の中間報告をまとめた。精力的な活動を続けている専門調査会で座長代理を務める慶応義塾大学環境情報学部の國領二郎教授に話を聞いた。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 ――e-Japan戦略の現状をどうみているか。

 國領 今はちょうど2つめの山に差し掛かっているところだ。1つめの山のインフラ整備は、e-Japan戦略Iがスタートした当初、アジアの中でも落伍しつつある状況への強い危機意識によって突破することができた。通信分野における競争政策が功を奏したわけだが、一方で過疎地のインフラをどう維持していくかという課題も浮き彫りになった。その答えは、2つめの山で出さなければならない。

 もう1つの課題は「利活用」だが、やればやるほど難しさが出てきた。その原因は、因果関係が遠いことにある。IT利活用は基本的に民間がやるべきことだが、政府が笛を吹いても民間が踊らず、民間が踊ったとしても医療の質が向上するという結果を生むまでに時間がかかる。“政府の施策”と“国民生活の向上”の間の距離がものすごく遠い。ITを国民や企業が使えるようになって良かった、と言える状態をどう実現するか。その2つめの山に直面している。

 ――今年3月の中間報告の成果と反響は。

 國領 最大の目玉は成果主義を盛り込んだことだ。例えば、中央政府の電子申請手続きの進ちょく率はすでに97%になっているが、その利便性は実感されていない。そのギャップをどう考えるか。やはり成果は利用者の立場で考えるしかない。第2に、民間の視点で、PDCA(Plan・Do・Check・Action)の考え方を入れたこと。それによって“改善”のサイクルを回していくのが主眼で、評価のための評価を行うわけではない。考え方は前向きに評価してもらえたが、実質が伴うかどうかだ。

 ――Check(中間報告)とAction(重点計画)は同調できているか。

 國領 まだシンクロするところまではいっていないと思う。本来、戦略とは組織の壁を越えて一体的に策定されるべきものだが、霞が関の組織原理は“課単位”で動いており、予算要求も同じ。重点計画で成果目標が打ち出すなど中間報告を意識してもらえたようだが、まだ道半ばという感じだ。

 もっと利用者視点を出していかないといけない。システムを提供する側は使える仕組みを用意すれば利用されるかどうかは利用者の問題と考えがちだ。IT講習会も、何万人が受講して予算をいくら消化したかが役所的な目標だが、利活用の視点では高齢者がどれだけ使えるようになったかが目標となる。そうは言っても「IT講習会は実施したが、実際に高齢者が使っていない」という点で評価されるのではたまらないと言うだろう。

 ――政策を予算化して実行するまでの時間もかかりすぎる。

 國領 政策が立案され、予算を通して実施して成果が見えるまでに2年半近くかかってしまうのは確かだが、泣き言を言っても始まらない。マラソンだと思って、1つずつ直していくしかないだろう。因果関係が遠いと言っても、近い部分もあるはずで、医療の質向上は遠くても、会計の部分でいくら時間を短縮できたかは計測できる。行政申請手続きのための経費削減の効果も計測可能だ。そうした代表的な事例を追いかけながら、評価を出し続けていくしかない。ちゃんと取り組んで成果を出したものは褒めてあげて、予算配分されていく仕組みができれば、だんだん良くなっていくのではないか。改善運動だと思っている。
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