e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>3.評価専門調査会-國領二郎慶大教授に聞く(下)

2004/09/20 16:18

週刊BCN 2004年09月20日vol.1056掲載

 ――今月、2回目の中間報告を取りまとめた。

 國領 1回目の中間報告では抽象論としてPDCA導入の必要性に言及したが、今回は具体的にPDCAをどのように実行するかとの方法論に踏み込んだ。電子政府に関しては電子申請と情報公開で細かな分析を行ったほか、初等中等教育の分野についても分析を行い、PDCAの方法論の上に乗せてみた。

 ――方法論とはどのようなものか。

 國領  民間が使ってきた手法を行政評価にも取り込んでいく。工場のQC(品質管理)活動で実績のある手法などを利用しながら因果関係を究明していくことになる。具体的にどのような評価手法を作るのが現実的かはこれから詰めていくが、評価結果に基づき個別案件ごと具体的な形で改善を求めていくようにしたい。

 ――ベンチマーク(評価指標)の検討状況は。

 國領 「あまり早く決めてくれるな」というのが本音かもしれない。2006年3月のe-Japan戦略IIの期限ぎりぎりに決めるのでは、後出しジャンケンになってしまうので、「せめて05年3月には出したい」との意向は伝えており、行政サイドも納得してもらっていると思う。

 ――どのような指標を考えているのか?

 國領 e-Japan戦略IIの先導的7分野の1つ、中小企業金融にしても役所ができるのは電子的な手続きを認めることぐらい。それによって保証業務などの手続きがスピードアップされ、結果的に中小企業の資金繰りが改善されてROA(総資産利益率)が良くなることが最終目標ではある。しかし、いくら手続きをIT化しても審査業務そのものに時間がかかってスピードアップされない可能性は十分にある。

 担当者としては電子申請が可能になった点で評価してくれないと困ると言うだろうが、資金繰りが改善した点で評価しなければ、利用者視点とは言えない。成果目標を達成するには自分の担当以外にも口出ししなければならず、時間もかかる。だが、無理難題をある程度こなしていくことも必要だ。

 ――地方の取り組みに対する評価は。

 國領 国民生活に近いところでやっているのは自治体。それも都道府県より市町村。評価専門調査会は、政府の取り組み状況を評価するとされているが、国民から見れば国も地方も連動しており、地方自治体についても言及するのは当然だろう。

 ――政策評価を行うための予算や体制は。

 國領 現状は、民間ボランティアに近い。費用も人もほとんどは民間からの持ち出し。ある意味で独立性が確保されているとも言えるが、企業の外部監査も、株主のためであっても費用は企業が出している。もう少し、政策評価のための調査活動を充実したいという思いはあるが…。

 ――e-Japanも社会全体を巻き込んだ議論になっていない。

 國領 e-Japan戦略にも功罪がある。罪は「国が何とかしてくれる」という印象を国民に与えてしまったこと。IT戦略をやるのは官ではない。評価される対象も行政でなく、民間を含めた全体であるべき。

 ITの本質は「自分で何とかする」という自律性にあると言って過言ではない。国に「何とかしてもらおう」というのは根本から間違っている。もちろん、国が動かないといけない部分もあるので取り組んできたわけだが、行政もワン・オブ・ザ・プレイヤーズに過ぎない。もともとe-Japan戦略は政と民とが立案したものであり、行政が主体的に立案しているわけではない。

 ――今後の日本にとって必要なことは。

 國領 21世紀型の社会構造をどのようにつくるか。循環型の経済構造をつくるとか、自律性や自発性を生かしながら安全な社会をつくるとか、高齢化が進むなかで個人の能力を生かせる社会をつくるとか…。21世紀型のビジネスモデルや社会モデルを構築していくことが必要だ。e-Japan戦略はそうした取り組みの1つではある。

(ジャーナリスト 千葉利宏)
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