総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>4.ワールドトラベルシステム(下)

2004/11/22 16:18

週刊BCN 2004年11月22日vol.1065掲載

 アジェンダ(松井文也社長)は、国際航空券卸販売を手がけるワールドトラベルシステム(畑中克保社長)と協業して、インターネットを使った旅行会社向けの国際航空券卸販売システム「スカイレップ」を開発した。2002年7月の正式稼働以降、同システムを利用する旅行会社数は400社近くに達した。07年3月末までには2400社に増やす計画だ。

業務ノウハウを横展開

 パソコン向けパッケージソフトの開発やソフトウェアの受託開発を主軸に据えてきたアジェンダにとって、ワールドトラベルシステムとの“異業種協業”は、新規のソリューションビジネスを立ち上げる大きな一歩に結びついた。アジェンダの松井社長は、「IT業界だけからの受注では事業拡大に結びつかない。広く他の業界にソリューションを展開してこそ、IT企業としての強みをフルに発揮できる」と、他業種からの受注拡大に意欲を示す。

 アジェンダは、ソフトウェア開発の実績が豊富で、最新のソフトウェアテクノロジーにも精通している。だが、業種特化の戦略を本格的に進めていくうえで欠かせない業種・業務のノウハウは、自社内だけではどうしても獲得できない。そこでアジェンダは、手始めとして旅行業界の業種ノウハウを獲得するため、99年にワールドトラベルシステムとの協業に着手したのである。

 協業にはメリットもあれば、マイナスになりかねない要素もある。互いの長所を持ち寄り、効率的なシステム構築が可能になる一方で、協業先の業績や経営方針に左右されたり、開発したシステムに対する評価が甘くなる傾向があるなど欠点もある。だが、こうしたリスクを負ってでも協業していかないと、「業種ノウハウを教えてもらえない」(松井社長)。単発の受託プロジェクトでシステム構築を手がけるのに比べて、「売り上げ的には厳しい」(同)協業開発だが、今後のソリューション展開を考えると業種ノウハウの獲得は不可欠だった。

 ワールドトラベルシステムとの協業を始めてから約5年、旅行業界の業種・業務ノウハウを十分に蓄積してきた。松井社長は、「旅行業界向けのソリューションは、ほぼ確立できた」と自信を示す。ワールドトラベルシステムとの協業モデルをベースとして、現在は印刷業界や製造業界との異業種協業を積極的に進め、各業界の業種・業務ノウハウの獲得に努めている。

 しかし、業種ソリューションを展開していくうえで、営業力や人員数の面で課題がある。アジェンダは、札幌市に本社を置く社員数60人弱の中堅ソフト開発ベンダー。大手システムインテグレータのように強大な営業力や大規模な開発人員を持ち合わせていない。この課題を乗り越えるために考案されたのが、業種に特化したASP(ソフトウェアの期間貸し)サービス型の業務アプリケーションを開発し、カスタマイズに伴うシステム構築と、アプリケーションの月額利用料の2本立ての収益源を確保する戦略である。

 特定業種に特化することで営業コストを抑え、なおかつ利用料収入を得ることで安定した収益に結びつける考えだ。

 カスタマイズを伴うシステム構築案件も積極的に受注していくものの、この部分が拡大しすぎると、必要に応じて開発人員を増やさなければならない。しかも、1つのプロジェクトが終了したのち、次のプロジェクトの受注までに空白期間が生じた場合、人件費が重荷になることも考えられる。

 このリスクを軽減するために、ASPサービス方式による月額利用料でベースとなる収益を得ながら、システム構築案件を適時受注することで売り上げを伸ばすという。いわゆる“二刀流”の戦略を打ち出す。

 ワールドトラベルシステムとの協業を担当したアジェンダの千葉均・トラベルシステム開発部部長は、「トラベル開発部の売上高のうちシステム構築案件を3割、利用料収益などサービス関連が7割の比率が理想だと捉えている」と話す。利用料収益だけでは売り上げが上がりにくく、システム構築だけでは安定性に欠ける。そのため、収益を最大化できるバランスのよい事業構造を重視する。

 アジェンダが今年10月に本格的な販売を始めた旅行会社向けに海外旅行業務を支援する業務アプリケーション「スカイグローブ」も、インターネットを経由して提供するASPサービス方式を採用し、バックエンドではXMLなどウェブサービスを実現する技術を組み込んだ。印刷業界や製造業界向けにも、ウェブサービス対応型の業務アプリケーションの開発を進める。顧客企業からの要望を受けて、個別のシステム構築にも応じる。

 松井社長は、「XMLなどウェブサービスを実現する技術を駆使した業務アプリケーションの開発を進める。クライアントに業務アプリケーションをインストールして使うクライアント/サーバー(C/S)方式は相対的に縮小させる」と、インターネットをベースとしたビジネスモデルに主軸をおいた展開を図る。

 今年度(05年3月期)の売上高は前年度並みの約7億円を見込むが、来年度(06年3月期)の売上高は注力する業種向けソリューションビジネスの本格的な拡大が期待できることなどを受けて、8-10億円を目指していく。(安藤章司)

  • 1