情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第29回 長野県栄村 課題残る“情報過疎地域”対策

2004/11/29 20:43

週刊BCN 2004年11月29日vol.1066掲載

 長野県の北部、新潟県との県境に栄村はある。標高2000メートル級の山々に囲まれ、冬場の平均積雪は約3メートル。豪雪により交通がしばしば途絶するだけでなく、今年は台風23号による土砂崩れで長野方面に向かうJR飯山線が不通となった。山間地で“情報過疎地域”である栄村が長年求めてきたのが、テレビ放送の受信施設の設置。しかし、長野県の民放テレビ局の中には周辺地域に送信所を設置していない局もあり、村民はテレビ視聴という点でも不便を強いられてきた。(川井直樹)

IPによるテレビ再送信事業が頓挫 難視聴解消に著作権の壁

■各戸に自前のブロードバンドネットワーク敷設

 新潟県津南町と境を接する栄村。なかでも秘境として知られる秋山郷に行くには、長野県ではなく新潟県津南町から入る国道405号線が一般的なルート。このため、津南町をカバーするため新潟県の民放はサテライトを整備しており、新潟県側の電波は一部で受信できる。

 その一方で、長野のテレビ局は、NHK5か所のほか信越放送(SBC)、長野放送(NBS)の共聴アンテナがあるだけ。秋山地区でNHK長野放送局の放送を受信できるようになったのは25年前に過ぎない。未だに中継設備を持たない地元局もあり、栄村の大部分で視聴できない有様。山間の集落を多く抱える自治体にとって、携帯電話の不感地域とテレビの難視聴地域の解決は、過疎化防止のためにも不可欠な政策だ。

 この解決のために、栄村は2002年度政府補正予算事業である総務省の「e-まちづくり交付金」に手を挙げ、採択された。栄村が計画したのは、IPマルチキャスト方式を使ったテレビ映像の再送信事業だ。

 すでに栄村には、「00年度に過疎地特別対策で光ファイバーとメタルケーブルによる有線放送網を拡充。03年1月には、長野のISP(インターネットサービスプロバイダ)に長期契約で貸し付けて高速インターネットサービスを始めている」(栄村総務課企画財政グループ・高橋真太郎氏)というように、意外なようだがブロードバンドネットワークのインフラが整備されていた。村内各戸に最高12 Mbps、80%以上の世帯で5Mbps以上の接続環境が整っている。

 この有線放送網は、非常時の防災通信や村内の定時放送などに使われている。しかし、音声による通信だけであり、帯域は余っている。これを使ってIPにより画像配信をすれば、難視聴を解消できると踏んだわけだ。

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 e-まちづくり事業の交付金は1000万円。これを使って、村役場の本部に配信サーバー2台、4か所の中継局に正副2台のIPエンコードサーバーを置いた。さらに、家庭のテレビで視聴を可能にするためのセットトップボックス(STB)は韓国メーカーが開発した。この実証実験には、村内の40世帯が参加し、03年10月からテレビ放送の配信を開始した。運営は、長野の地元ISPであるJA系の長野県協同電算(JANIS)が行った。

 もちろん結果は良好で、参加した各戸ではこれまで見られなかったテレビ番組を楽しめるようになった。また、IPであるため、パソコンでもテレビ番組を見ることができる。難視聴の解消にメドがついた矢先、この事業は大きな問題にぶつかった。番組の「著作権」という壁である。

■苦肉の策の特区申請も却下

 栄村総務課の高橋氏は、「少なくとも地元テレビ局は反対ではなかったように思う。ただ、日本民間放送連盟からすれば違ったように見えたのではないか」という。このため、栄村として「知的財産推進計画の見直しに関する意見」や「IPテレビによる難視聴解消特区提案」など、何とかe-まちづくり事業の成果を生かす方法を模索し始めた。

 高橋氏は、「IPマルチキャスト方式によるテレビの再送信について、総務省は法律上、通信とも放送とも判断できないとしている」と主張する。

 特区提案に対する返答として、総務省からの回答は、「総務省はIPマルチキャスト方式による放送は、有線テレビジョン放送法および電気通信役務利用放送法の登録対象として排除されているわけではない。著作権法上の放送の扱いは別個のもの、だった」とし、文部科学省は、「テレビ番組等のコンテンツをインターネットで無断送信できるようにすることは、WTO(世界貿易機関)等の国際条約に違反することになる」と回答してきたという。

 CATV事業者のように、個別に放送局と契約を交わせば問題は起きないが、この場合、村が運営する栄村有線放送電話組合が村民から契約料を徴収することは、行政としてはそぐわないだろう。同組合は有線電気通信事業法に定められた通信事業者だが、既存の有線放送については無料で提供している。

 「著作権」を守ることは重要であり、地域住民の利便性の向上という社会的意義があっても、これに例外を設けることも難しいだろう。しかし、e-まちづくり事業に採択したのも総務省ならば、この事業に「ノー」を宣言したのも総務省である。採択しなければ、あるいは採択する段階でテレビ局との契約など何らかの措置を講じていれば、栄村も「難視聴地域解消」という〝夢〟も見ずに済んだのではないだろうか。問題は残ったままだが、「実験は続けていく」(高橋氏)のだという。
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