情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第33回 岩手県水沢市 住基カード利用を積極化

2005/01/03 20:43

週刊BCN 2005年01月03日vol.1070掲載

 2003年8月から本格運用が始まった住民基本台帳ネットワークカード(住基カード)の普及が進んでいない。住民票交付が容易になったとしても、それ以外の利用法がなければ普及する道理もないだろう。岩手県水沢市は、従来の市民カードに代えて、住基カードの利用拡大を進める取り組みを進めている。(川井直樹)

病院の再来予約などを可能に 北上、花巻市との共同運用を開始

■アプリケーション搭載で利用促進

 水沢市は、97年度から03年度まで旧通信・放送機構(TAO)が実施した「都市コミュニティ研究成果展開事業」や、地方自治情報センター(LASDEC)が01年度から03年度に実施した「ICカード標準システム実証実験」を通じて、市役所のマルチメディア化、ICカードの導入を図ってきた。

 00年9月からは非接触型ICカードの水沢市民カード(通称・Zカード)の配布を開始。キオスク端末を当初2台配置し、証明書の自動交付、公共施設予約などのサービスをスタートさせた。Zカードの利用を始めたものの、「実は市民向けにはそれほどPRしてこなかった」(及川潔・水沢市政策監理室政策監)という。

 「水沢市の中には、山交通の便が悪いところもある。地域の公民館などにもキオスク端末を置き、すべての地域で利用できるならば良いが、すべての市民が同じように利用できるわけではない」(及川政策監)というのがその理由。実証実験ということもあり、1台数百万円という高価なキオスク端末を各所に配置することはできなかった。それでも約5000枚のカードを市民が手にした。

 状況が変わったのは、住基ネットの運用開始。住基カードの普及を進めるために04年4月までに既存のZカードから住基カードへの置き換えを終えた。もちろん、Zカードのメニューをそのまま住基カードで利用でき、さらに便利なアプリケーションも搭載した。

 「住基カードは本人利用の確認や、公的個人認証の保存用に使える。本人の身分証明書になるわけで、それを活用していろいろな使い方ができるようになる」(佐藤勝己・政策監理室主査)と前向きに検討をしてきた。これまでにICカード標準システムとして提供してきた証明書自動交付、公共施設予約、救急支援サービスなど5つのアプリケーションに加えて、独自に開発した印鑑登録証明書交付、図書検索予約、市立の総合水沢病院の再来予約などのサービスを搭載。合計8つのアプリケーションメニューを揃えた。

■サービス選択率は95%以上に

 昨年4月から9月末までの住基カード交付申請人数は5432人。証明書自動交付や申請書自動作成、水沢病院の再来予約などの各サービスは、いずれも95%以上という高い選択率になっている。すでに人口の10%近くが住基カードの交付を受けており、水沢市では早期に市民の半分に相当する3万枚の交付を目指している。「3万枚になれば、各世帯に1人は住基カードを保有することになる。住基カードを持つ人が代表になり、交付を受けられない子供の診察予約などが出来るようになる」(佐藤主査)というわけだ。

 現在、キオスク端末が置かれているのは市内8か所。山間部の小集落などでは未だに設置が遅れている。ネックになっているのは、端末1台が非常に高価なこと。「市民の利便性が向上するのは分かっている。しかし、数百万円もする端末を設置しても、人口の少ない地域でどれだけ利用されるか」と、財政状況の厳しいなかでは、なかなか端末の台数を増やすことは難しいという。コスト高がネックになっている。

 システムのコスト負担を軽減し、住基カードの普及と利用を促進するために水沢市は、北上市、花巻市と住基カードシステムの共同運用に乗り出す。水沢市がLGWAN(総合行政ネットワーク)-ASPとしてサービスを提供し、04年末までにインフラ整備を完了。3月末までの予定で実証実験を行い、4月からは本格利用という計画になっている。 今回の3市の共同運用についてはLASDECの支援を受けており、北上、花巻の両市でも住基カードの利用が進めば、普及促進の1つの解決策として期待が出てくる。

 早くから住基カード利用に積極的だった水沢市にとっては、「現在、年間の住基カードに関連するサーバーの運用費用が約700万円。北上市と花巻市がLGWAN─ASP方式で共同運用することで費用負担の軽減ができる」(及川政策監)というメリットが生まれる。住基カードの利用次第では、行政側のコスト削減と住民サービスの向上を同時に図れるというわけだ。
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