情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第35回 鹿児島県鹿児島市 電子申請・届出受付を開始

2005/01/17 20:43

週刊BCN 2005年01月17日vol.1072掲載

 鹿児島市は、昨年11月1日付で周辺5町と合併した。これを機に、電子申請・届出の受付サービスを始めた。サービスの導入にあたっては、鹿児島県および県内市町村との共同利用方式を採用。同サービスの開発費用の低減を図った。今後は受付業務の種類を増やすと同時に、利用率の拡大に力を注ぐ。(安藤章司)

周辺5町との合併を機に 共同利用方式で開発費負担を分散

■今年3月末までに約50業務へ拡充

 周辺5町と合併した鹿児島市は、合併と同時に昨年11月1日付で新しく電子申請・届出の受付サービスを始めた。サービスは48業務からスタート。今年3月末までに約50業務に拡充する。さらに2005年度末までには新たに約70業務を追加し、全体で約120業務でインターネットを使った受付サービスを始める計画だ。

 鹿児島市で受け付ける申請・届出件数全体に対し、今年度末までに電子申請・届出の受付サービスのカバー率は約25%に達する。来年度末までに約120項目の電子申請・届出が可能になれば、過半数を超える申請・届出が電子化されることになる。

 今後は、インターネットを使って申請に伴う手数料の支払いなどを行うマルチペイメントシステムなどの環境整備を進め、最終的には申請件数全体の「8割をカバー」(川村文昭・鹿児島市企画部情報政策課システム管理係主幹)する電子受付サービスに仕上げる。

 今回の電子受付サービスは、鹿児島県および県内市町村による「共同利用方式」を採用した。鹿児島県は昨年10月1日付で、市町村に対していち早く電子受付サービスを開始。鹿児島市は県に1か月遅れで受付サービスを始めたことになる。その他の市町村についても準備が整ったところから「順次受付サービスの開始が見込まれる」(鹿児島県町村会の中島喜久生・情報開発課課長補佐)と、電子受付サービスの普及については見通しが立っている様子。

 電子受付サービスの名称は「鹿児島e(いー)申請」。今年度、このサービス立ち上げに要した予算は、鹿児島県と県内市町村の総計で約2億8000万円。費用は鹿児島県と市町村と折半する方式が採られた。鹿児島県は県民全員を利用者の対象としていることから半分の約1億4000万円を負担し、残りの半分を各市町村の人口比で負担する。

 人口約60万人と鹿児島県全体の約33%を占める鹿児島市の負担は約5000万円。鹿児島県によれば、県単独や市町村単独でシステムを開発するよりも「遥かに安い投資」(西内昭一・鹿児島県企画部情報政策課主幹兼システム開発係長)で済み、開発コストの点で共同利用方式はメリットが大きいと語る。

 鹿児島県町村会によれば、人口が少ない自治体の場合、「年間10万円以下の開発投資と維持運用費で済むところもある」(鹿児島県町村会の山下政志・情報開発課自治体IT推進プロジェクト係長)と、人口が少ない市町村になればなるほど、単独で開発する場合に比べてシステム投資が大幅に少なくて済む。

 また、県との共同利用による受付システムの開発の段階から、鹿児島市など主要な自治体が参加したことで、県だけでなく市町村にとっても使いやすい仕組み作りができたという。

■事前予約専用窓口で利用率アップへ

 鹿児島市では、電子申請・届出の受付サービスの今後の課題として、利用率の向上を挙げる。市では「システムを開発・運用するだけでは利用率は上がらない」(鹿児島市の川村主幹)とし、利用率を高める施策に力を入れる。

 現段階では、住民票や印鑑証明などの証明書類を発行する時、利用者は市役所や出先機関の窓口まで足を運ばなければならない。市では、インターネットなどによる事前申請のメリットを強調するため、一部で事前予約用の専用窓口を設けている。

 受付サービスを利用すれば、そもそも事前申請なしに来た利用者よりは、必要とする証明書類などを早く受け取ることができる。だが、これに加えて一部で事前に予約した利用者向けの専用窓口を用意することで、「より大きなメリットを感じてもらう」(樋口和弘・鹿児島市企画部情報政策課IT推進係主査)仕組みをつくったわけだ。

 電子受付サービスを検討していたり、すでに導入した市町村のなかでは「利用率が思ったより伸びない」という問題を抱えているケースが少なくない。

 今回、鹿児島市が導入した事前予約用の専用窓口は、高速道路や有料道路などで導入されているETC(自動料金収受システム)がヒントになった。ETCは料金所で停車して料金を支払う手間がかからず、ノンストップで自動的に決済できるシステム。ETCのような専用窓口を役所に開設することでメリット感を高め、利用率の向上に結びつける考え。

 鹿児島市では、電子申請・届出を使う人の比率が全申請・届出件数の10%まで高まれば、「市民サービスの向上や窓口業務の効率化が体感できるようになる」(鹿児島市の樋口主査)と、まずは利用率10%を目指す。このハードルをクリアすれば、普及に弾みがつくと期待を寄せる。

 受付サービスの利便性や利用率の向上に関するノウハウを蓄積し、今後、電子受付サービスを導入する他の市町村にノウハウを提供していく方針。受付サービスの利用マニュアルの作成や窓口対応の作業手順の定型化などを進め、「鹿児島市が県内市町村の見本となる」(同)よう、率先して普及促進に努める。
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