情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第43回 青森県八戸市(下) 情報システムの大幅刷新へ

2005/03/14 20:43

週刊BCN 2005年03月14日vol.1080掲載

 青森県八戸市は来年度からの3か年をめどに、情報システムの大幅刷新に取り組む。基幹系システムのオープン化も視野に入れる。3月31日付で隣接する南郷村と合併し、新しい八戸市としてスタートを切る。過去2年余り、先の見えにくい合併協議が続き、情報システムに関する新規プロジェクトの多くは延期された。合併後は「180度方針を変える」(玉田政光・八戸市総務部情報政策課副理事兼課長)と、新市に相応しい情報政策を積極的に展開していく方針だ。(安藤章司)

合併後は180度方針を変える 新市に相応しい情報政策を積極展開

■基幹系のオープン化を視野に

 情報システムを統合するうえで、不具合が発生するリスクを少しでも減らすために、八戸市の情報政策は守りを主体とした運営にならざるを得なかった。だが、4月からは状況が大きく変わる。3月31日付で隣接する南郷村と合併し、新しい八戸市に相応しい高度な情報政策が求められているからだ。これまでの堅実さ重視の方針から「180度方針を変える」(玉田情報政策課長)と、電子申請システムの早期立ち上げや基幹系システムのオープン化も視野に入れた積極的な情報政策を打ち出す方針を示す。

 新しい八戸市の情報政策のキーワードは、「ITを使って住民サービスが向上したことが実感できるようにする」ことと、「ITを活用し役所の業務効率を大幅に高める」、「地元のIT企業の技術力、業務ノウハウの向上などを通じた産業振興」の3つ。電子申請・届出の受付システムなどは市民との接点が多く、住民サービスの向上が実感しやすい。同時に、電子的に書類を受け付けるための庁内の業務基盤の整備を進め、業務効率の向上に取り組む。

 八戸市では、現在、富士通のメインフレームで住民基本台帳や税務システムなどの基幹系情報システムを動かしてきた。垂直統合型のメインフレームでは、特定ベンダーに依存しやすく、なかなか地元のIT企業に発注しにくい。今後3か年をめどとして、特定ベンダーに依存しないオープンシステムへの移行を視野に入れる。オープン化が進めば、地元IT企業に発注しやすい環境ができ、地域振興に役立つ。

 地元IT企業への発注量を増やすには、まず、地元IT企業に役所の業務ノウハウを身につけてもらう必要がある。オープン化だけで地元シフトが実現できるものではない。八戸市では、2003年度から複数の地元IT企業から「出向社員」として社員を受け入れ、役所の業務ノウハウの教育に努めている。今年度は地場IT企業の吉田システムやサン・コンピュータなどから8人の社員を受け入れた。来年度以降も、同様の施策を続けることを検討している。

 玉田情報政策課長は、「Javaやオープンソースソフトウェアなどの技術は、システムベンダーなら自然と身につく。だが、役所の業務ノウハウはこちらから提供しない限り、接する機会が少ない」と、出向社員を雇用する投資をしてでも業務ノウハウを伝授した方が、最終的にコストダウンに結びつくと考える。東京から足を運んでくる大手企業よりも、人件費が東京に比べて割安で交通費もあまりかからない地場IT企業への発注を進めれば、その分、コストを削れると試算する。

■電子申請の実証実験を実施

 八戸市は、昨年9-11月までの3か月間、民間企業などで構成する「電子申請推進コンソーシアム」と共同で、電子申請の実証実験を実施した。実験では出生届けを電子化する取り組みがなされた。子供が生まれた場合、通常、市民課、国保年金課、こども家庭課、健康増進課など4つの窓口に申請・届出をしなければならない。電子申請の実験では、インターネットを使った1回の申請・届出で同時に4つの課への手続きを済ませるマルチ申請・ワンストップサービスを検証した。

 最終的には、申請者の本人確認のため来庁しなければならないが、事前に申請や届出などの手続きを済ませてあるため、窓口での待ち時間が大幅に短縮される。電子化することで、役所の業務の効率化にも役立つことも分かった。それぞれのプロジェクトにかかる費用を積算する「足し算の論理」で予算を組むのではなく、ITを使ったコスト削減をIT投資とセットにして考えることで財源確保に取り組む。

 ITを導入するための財源を確保するには、業務の効率化が欠かせない。職員1人あたりの作業量を増やし、同時にITを活用して生産性を高める。最初は少ない投資で業務効率を少しずつ向上させ、財源確保のめどが見えたタイミングで、また次の投資をする。「これまで10人の職員でやっていた作業を8人でできるようにしたり、7人でできるようにするなど地道な積み上げ」(池田和彦・八戸市総務部情報政策課主幹)が、次の投資に結びつく財源を創り出すと考える。

 八戸市役所の職員は現在約2000人。04年度普通会計の当初予算をベースにした職員1人当たりの平均的な年間賃金は約650万円。仮に職員数全体の5%の人件費を削減できれば単純計算で6億5000万円の削減になる。昨年度の情報政策課の予算が約4億円であることと比較しても、ボリューム感のある削減額になる。

 「情報政策課がコンピュータのことだけ考えていては、財源確保は不可能」(玉田情報政策課長)と、住民サービスの向上、庁内の業務改革、地元IT企業の振興など総合的な施策を打つ考えを示す。脱メインフレームや電子申請システムの立ち上げは、その総合的な施策の一部分を占めるに過ぎない。

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