総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>20.青森ヤクルト販売(上)

2005/03/21 16:18

週刊BCN 2005年03月21日vol.1081掲載

 青森県を中心にヤクルト関連製品を販売する青森ヤクルト販売(武田隆一社長)は今年4月、5年の歳月を費やして改良を重ねてきた販売管理システムをほぼ完成させる。これは、ヤクルトの販売を担当するヤクルトレディ約600人にPDA(携帯情報端末)を持たせ、販売管理や在庫管理を日次で管理するシステム。集計したデータは徹底的に分析し、販売戦略の立案に活用する大規模な販売管理システムである。

PDAを活用した販売革新

 青森ヤクルト販売が最新のITを業務に活用する取り組みを始めたのは1996年頃。情報系システムをオープン化するところから始まった。01年にはPDAを活用した販売管理システムの構築プロジェクトを立ち上げ、中小企業庁の「IT活用型経営革新モデル事業」に応募し、02年度のモデル事業に採択された。同モデル事業を担当した経済産業省東北経済産業局では「模範となる先進モデル」(同局情報・製造産業課)と高く評価している。

 その後、顧客管理や在庫管理などの機能の改良・改善を続け、05年4月には「ほぼ完成に近い形に仕上がる」(青森ヤクルト販売の会津博・営業部営業推進課係長)と自信を示す。全国のヤクルトの販売会社を統括するヤクルト本社でも「青森ヤクルト販売のITを活用した業務改革は進んでいる」(広報室)と舌を巻く。

 青森ヤクルト販売は、青森県内を中心に約40か所の配送センターを展開し、約600人のヤクルトレディが販売に当たっている。ヤクルトレディは、1人あたり100-200件の法人や世帯、個人などの顧客を担当しており、青森ヤクルト販売全体の顧客件数は約9万件に達する。IT化する以前は、ヤクルトレディが「お届けメモ」と呼ばれる手のひらサイズの手帳を持ち、訪問先の顧客が毎週何曜日にどういった商品を求めているのかを克明に書き記していた。

 ヤクルト本社の商品群は、ヤクルトなどの飲料、サプリメントなど健康食品、化粧水などの化粧品と、主に3つの分野に及ぶ。商品点数は数百種類あり、売れ筋商品だけに絞っても200種類余りもある。これら膨大な商品に対する顧客の需要を書き記した「お届けメモ」をもとにヤクルトレディや化粧品を担当するヤクルトレディが定期的に顧客先へ届ける。

 「お届けメモ」は持ち運びに便利な手帳サイズだが、1か月分しか記帳できない。月が変わる度にヤクルトレディが手書きで新しい「お届けメモ」に前の月から引き継いだ情報を転記しなければならず、この作業だけでも「相当な負担」(ヤクルト本社広報室)だった。顧客先の情報が「お届けメモ」という紙ベースによる記録であったため、青森ヤクルト販売の経営層に情報が上がってくるまで時間がかかった。また、担当者が休んだ時も代替配送の調整に手間取った。

 こうした問題を解決するため、「お届けメモ」をPDAに置き換えるIT化を決めた。PDAに記録した情報は、パソコンやネットワークと情報を同期させることができるPDA用クレードルを使って集める。クレードルは約40か所のセンターに置いてあり、ヤクルトレディは、PDAをクレードルに差し込むだけで、販売情報を青森ヤクルト販売に報告できる。PDAであるため月が変わっても転記する必要がなく、仮に担当者が休んだ時でも、PDAからもたらされた情報により顧客需要を把握している各センターが、代替の担当者へ適切な指示を出しやすくなった。

 PDAを活用した販売管理システムは中小企業庁の02年度「IT活用型経営革新モデル事業」に採択され、本格的なシステム構築に着手。03年6月から順次稼働を始めた。その後の改良や機能追加を続け、今年4月からはPDAと連動して動く在庫管理システムが本格的に稼働する。システム構築を担当したシステムインテグレータのビジネスサービス(山岸昌平社長)は「在庫管理システムが稼働することで、システム全体の完成度が一段と高まる」(三上勝久・営業本部マーケティング企画PJシステム営業G民需担当リーダー)と、必要な機能がほぼ揃ったと話す。

 次回は、販売管理システムの運用成果や今後の活用方針、同システムを構築したビジネスサービスの実力を検証する。(安藤章司)
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