e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>29.e-文書法施行(下)

2005/03/28 16:18

週刊BCN 2005年03月28日vol.1082掲載

 財務省と国税庁は、e-文書法にあわせて改正された電子帳簿保存法に基づき、国税関係書類のスキャナ保存制度を4月から導入する。電子帳簿保存と同様に税務署長の事前承認が必要で、1日から承認申請書の受付を開始、電子データへの保存切り替えは申請して遅くとも5か月後(2006年度以降は3か月後)から認められる。電子帳簿、電子申告、スキャナ保存と整備が進んできた財務会計のIT基盤を、今後は企業がどう活用していくかが焦点となりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 スキャナ保存制度では、すべての国税関係書類が対象となるわけではない。可能なのは、契約の申込書、請求書、納品書、見積書および3万円未満の契約書・領収書などの書類で、特に重要な帳簿、棚卸表などの決算関係書類、それ以外の契約書・領収書類は対象外となった。考え方の基本は「税務行政の根幹である適正公平な課税が確保できるかどうか」(森田悟・国税庁課税部課税総括課課長補佐)。それには課税の根拠となる申告書が正しく作成されなければならないが、申告書は決算書から作成され、その元になるのが帳簿。記入される金額は契約書や領収書などの証憑書類の数字である。

 「取引の始めから終わりまでの重要な部分をしっかり押さえておけば、適正公平な課税の確保ができると判断した」(松崎啓介・財務省主税局税制第三課課長補佐)。改ざんなどのリスクが高まるなかで、まずは必要最小限の重要書類は紙で残すことで、それ以外の書類のスキャナ保存を認める決断を下したわけだ。紙の保存量で見た場合、保険会社なら契約の申込書など、メーカーや流通会社なら納品書などの書類が負担となっており、今回の区分を適用しても、大手企業のヒアリングでは削減効果は95%以上と、十分な成果が得られる見通しだ。

 スキャナによる保存要件をまとめると、利用できるスキャナは、原稿台と一体となったものに限り、デジタルカメラ、ハンドスキャナは対象外。解像度200dpi、256階調以上と家庭向け製品でもクリアできる性能要件とした。入力作業は、外部委託も認めているが、書類の作成・受領後「速やかに(1週間以内)」に、業務処理に時間がかかる場合はその期間(1か月以内)を加算した範囲で行うように求めている。スキャニングした電子データには、入力単位ごとに入力作業者、または直接監督者の「電子署名」を行うのに加え、「タイムスタンプ」も付ける。電子署名だけでは、電子署名した本人の改ざんを防げないため。電子署名は、主務大臣(総務・法務・経済産業)の認定するものか、法務省の商業登記法に基づくもので、公的個人認証は含まれない。タイムスタンプは財団法人、日本データ通信協会が認定するものと規定した。

 スキャニングしたあとのデータ保存では、電子署名だけではデータの改ざんを防げても削除を防げないため訂正削除履歴を残すことや、いつでもすぐにデータを見て印刷できるシステムを設置しておくことなどを求めている。税務署長の事前承認では、スキャナなどのシステム要件だけでなく、運用規定の整備状況なども審査される。

 いまや、中小零細を含めて企業がコンピュータを使って帳簿や決算書類を作成するのは当たり前の時代。しかし、電子帳簿保存制度の申請件数は法人・個人を合わせた累計で約4万3000件にとどまっており、大半の企業はコンピュータで作成した電子データを紙に打ち出して保存しているのが実態だ。

 今回のスキャナ保存制度の導入をきっかけに、電子帳簿保存とあわせて事前承認手続きを行い、財務会計部門の効率化を進めようとする企業が増えることも予想されだろう。また、3万円で区分された契約書・領収書の取り扱いは、「3万円では金額が小さすぎる」との声がある一方、建設業界などでは印紙税の課税対象となる3万円以上の請負契約を、印紙税のかからない電子契約に切り替える動きも活発化している。話題となったNHKの水増し請求事件のように領収書に依存した従来型の決済システムにも弱点はあるだけに、今後は透明性を確保しやすい電子契約や電子決済サービスを活用する動きが一段と強まっていくと考えられる。
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