ITIL創生期 変わるITサービス

<ITIL創生期 変わるITサービス>1.プロローグ──勘と経験のITサービス一掃

2005/04/04 16:18

週刊BCN 2005年04月04日vol.1083掲載

 「勘と経験に基づきシステムを保守・運用していた」──。長らく企業システムの保守・管理(ITサービス)は「適正なコストや成果が見えにくい」との不満が絶えなかった。NECはブラックボックス化したシステム管理・運用の中身を可視化するため、「1つの解を見い出せる」(大畑毅・マーケティング推進本部シニアエキスパート)として、2002年から「ITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)」研究に関する社内プロジェクトをスタートさせた。

 ガートナーデータクエストの2003年調査によると、国内企業のITシステム予算のうち、「新規プロジェクト」への投資額はわずか33%。残りの67%は「既存ITシステム維持」つまり“後ろ向きな”投資に費やされている。多くの企業は、この現実に不満を持ち、システム保守・運用の委託先となるシステムインテグレータなどに「システム保守・運用を改善し、ITコストを削減しろ」と、突きつけ始めているのだ。

 ユーザー企業のシステム担当者が抱えるこうした“悲鳴”を解決する手立てとして、国内でもITILが脚光を浴び、NECと同じ時期に、富士通や日立製作所など大手ITベンダーなどが、こぞってITIL研究を開始している。国内では企業へのITIL適応例はまだ少なく、今は研究段階の“創生期”といったところだが、「2、3年後には、ITILを知らずしてITサービスを語れない時代が来る」というのが、ITベンダー間の共通認識になりつつある。

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 ITILはITサービスのベストプラクティスを集めて、保守や運用の業務を体系化したシステム運用のガイドライン(フレームワーク)だ。1980年後半に英国の政府機関が作成、文書化し、ITサービスにおける実際の知識やノウハウが集約されている。ITILは今や、世界のIT業界でデファクトスタンダードと認知されつつある。

 ITILのフレームワークは、日々の運用手法を記述した「サービスサポート」(6項目)と中長期的なサービスの管理手法を記述した「サービスデリバリ」(5項目)から成り立っている。これを即、自社のシステムに適応できるわけでなく、この中核的な2つの解決課題を実現する管理手法やITソリューションを構築する必要がある。

 サービスサポートとサービスデスクの具体的な内容は、次の章で詳報するが、ITILの適用により、「サービスレベルが向上するほか、長期的なコスト削減が図れるという」のが売りだ。従来、ITサービスに関する運用基準は、各ITベンダーがそれぞれ持っていた。しかし、ソフトウェア開発の開発能力を客観的に示す品質管理基準「CMM(Capability Maturity Model)」などのような統一的な評価指標は、ITサービスになかった。

 03年5月には、ITIL普及団体の国際的な非営利法人(NPO)「it SMF」の国内団体「itSMFジャパン」が設立された。現在、itSMFジャパンには、団体会員207団体、個人会員141人、グローバル会員7団体が加盟している。国内の主なITベンダーがITIL研究を開始し、適応例を増やす活動をしていると言っても過言ではない。この連載では、itSMFジャパン設立企業を中心に取材し、国内ITILの現状と課題について掘り起こす。
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