e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>32.電子申請体験記─社会保険庁編

2005/04/18 16:18

週刊BCN 2005年04月18日vol.1085掲載

 政府が行政手続きの96%以上をオンライン化したと発表してから、ちょうど1年が経過した。しかし、国民の多くが実際に利用できるサービスは電子申告ぐらいしかないのが実情だ。筆者も電子申告の開始届出書を提出して法人税申告の準備を進めているところだが、電子申告以外にようやく多くの国民が利用できる電子申請手続きとして、社会保険庁の「年金加入記録照会・年金見込額試算」の電子申請が1月31日からスタートした。電子申請が利用されていないとの批判に、年金問題への関心の高まりから“キラーコンテンツ”として導入が決まった。果たして利用状況はどうか。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 電子申請を始めるにも、最初の手続きが面倒との声は多い。新サービスもまず、利用者の電子証明書が必要となる。料金だけを比べれば個人で利用するには、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)に基づいて市町村が提供する公的個人認証サービス(手数料500円、有効期限3年)がやはり手軽ではある。市町村の窓口で住民基本台帳カード(住基カード、手数料500円)を取得、引き続き市町村の窓口で暗号鍵と公開鍵を作成し、公開鍵を都道府県単位認証局に送信して住基カードに電子証明書を書き込んでもらう。対応のICカードリーダー/ライターを購入してパソコンにセットし、公的個人認証用クライアントソフトをインストールして使える状態にするまでで、パソコン初心者にはかなりハードな作業だ。

 筆者は住基カードを2003年9月、公的個人認証も04年2月に取得済みで、いつでも使える状態にはしていたが、ICカードリーダー/ライターのドライバーソフトが最初は上手く動かずに苦労させられた。

 次に、社会保険庁のホームページトップにある年金相談の年金加入記録照会・年金見込額試算をクリックして実際のサービスに入る。ここでもまず、厚生労働省の電子証明書を取得し、ユーザー登録して厚労省専用の申請アプリケーション一式をダウンロード。インストールして設定環境を整えるだけで一苦労である。さすがにそこまでは何とかクリアしたが、肝心の申請書作成でも悪戦苦闘。まだ55歳前で、年金見込額計算サービスは受けられず、年金加入記録を問い合わせるだけなので、記入する項目も少ないのだが、申込書部分と申請書部分の切り替え方法などが理解できず、電子署名を行う画面まで進めない。

「次の作業手順を指示してくれるような機能があれば迷わないのに…」と思いながら、いろいろ試して何とか送信までたどり着いた。すぐに到着確認通知が送信されてきて、待つこと6日間、審査完了通知が送信されてきた。再び厚労省のホームページに接続し、処理IDやパスワードを入力して通知ファイルをダウンロード。ところが入手したファイルは圧縮ファイルで、開封の仕方が判らない。とうとう厚労省のヘルプデスクに電話して聞くと、「インターネット上で公開されているフリーソフトを入手してください」とのこと。ヘルプデスクの女性も「確かに利用するにもハードルが高いですよね」と認めていたが、書類1枚を入手するのにこれほど苦労するとは正直、思わなかった。

 しかも、厚労省のシステムだけがそうだというのではない。法務省の電子申請システムにも挑戦してみたがほぼ同じ。電子申請を利用しようとすれば、役所ごとに同じように利用環境を整えなくてはならないのである。さすがに総務省の行政管理局を中心に電子政府窓口「e-Gov」に統一した電子申請窓口を設置するべく準備が進んでいるが、当然の措置だろう。申請書の書式などもできるだけ標準化し、操作手順も統一しなければ、異なる種類の申請を行おうとするたびにパソコン画面上をウロウロさせられる人は多いはず。国民から一般モニターを募集して徹底的に使い勝手を改良していく必要があるだろう。

 ちなみに社会保険業務センターによると、3月末までの利用実績は年金見込額試算が51件、年金加入記録が136件の合計187件。現時点ではまだ、社会保険労務士など関係者が試しに利用したケースが多いとみられ、政府全体でも認知度アップと使いやすさの向上で電子申請の利用を促進していく方策が求められている。
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