総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>26.富士通研製作所(下)

2005/05/02 16:18

週刊BCN 2005年05月02日vol.1087掲載

 プラスチック金型製作・成形の富士通研製作所の経営革新に役立ったITツールは、小さくて安価なPCサーバー1台だった。インターネット上にあるこのPCサーバーを仲介役として、営業の最前線とバックにある工場の情報共有を推進。顧客の要望に迅速に対応できる体制を構築して、顧客満足度向上と売上増を実現した。

業務改革はPCサーバー1台から

 富士通研製作所は、岩手県前沢町にある工場を母体とし、東京に本社兼営業拠点を持つメーカーである。東京など営業の最前線と後方の前沢工場との密接な情報共有こそが、競争力を高める上で欠かせない要素だと感じていた。だが、システムインテグレータ(SI)を使って、大がかりなIT投資をするほどの余裕はない。本業のプラスチックの金型製作や成形をする生産設備への先行投資だけでもリスクが大きいのに、その上、IT投資のリスクを抱えるのは負担が大きすぎるからだ。

 こうした状況に対して、SIの商援隊(糸賀毅社長)の提案は明確だった。情報共有など基礎的なITインフラの整備なら「リスクを負うほどの投資は必要ない」(糸賀社長)と、富士通研製作所に提案した。インターネット上で情報共有の仲介役となるのはマイクロソフトの中小企業向けサーバー「スモールビジネスサーバー2003」で、これに商援隊独自のサービス・サポートを付加した。初期投資はトータルでも50万円以下。月額数万円の保守費用で運用できる。

 富士通研製作所では、携帯電話やパソコンなどのプラスチック部品の受注が増え始めたここ10年余りで急速に少量多品種への生産にシフトした。品質に対する要求も格段に高まり、携帯電話のプラスチック部品に対する品質の要求度合いは「異常なほど高い」(中嶋祐行・常務取締役)と、携帯電話メーカーが競合他社に勝つため、必死に品質を高める努力していると話す。

 10年前まで、通常のプラスチック製品ならば、設計寸法通りに成形し、目で見て品質をクリアしていれば合格だった。しかし、今は違う。顕微鏡で30倍に拡大し、傷や変色などを細かく調べる。たとえ傷や変色があったとしても人間の目では判別できない小ささだ。

 今では、顕微鏡の写真をデジタルカメラに収め、電子メールで発注元のメーカー担当者に送る。そのデジタル写真を見ながら品質について突っ込んだ議論をする。携帯電話のアンテナの先端部に取り付けるプラスチック製のキャップ1つ取り上げても、同様の厳しい品質チェックがなされる。富士通研製作所の中嶋常務は、「仕事のやり方が大きく変わった」と、IT化の波を肌で感じている。

 富士通研製作所のキーマンである中嶋常務が、業務にITが急速に浸透していることを痛切に感じていたため、商援隊のスモールビジネスサーバーを活用した提案は、素直に受け入れられた。スモールビジネスサーバーの付加機能の1つにウェブ対応のグループウェア「グループボード」があり、これを使えば、ファイルやデータの共有だけでなく、役員や社員同士の情報共有も容易に実現できる。

 商援隊が独自に開発したスモールビジネスサーバーの運用状態を24時間監視する「商援隊SBS運用監視サービス」も評価できた。サーバーが停止しても、商援隊がいち早く原因を見つけ出して修復してくれるため、サーバーの管理にほとんど手間がかからない。

 富士通研製作所のケースでは、ITの必要性を認識しているキーマンに出会えたことで、話しがスムーズに進んだ。しかし、中小企業経営者に、同じような提案をしたとしても、「これまでうまくやってきたから、これからもうまくいく」、「ITに構っている時間がない」、「うちの業種にITは必要ない」などの理由で、提案を受け付けてもらえないことが多くを占めるという。

 こうしたケースでは、「ITありきで話を持ちかけると失敗する」と、商援隊の糸賀社長は分析する。まず、日常の業務でどういう点が困っているのか、悩みは何かを、1つひとつ丁寧に聞き出す。富士通研製作所の場合ならば、営業最前線と前沢工場との情報共有の方法だった。困っている点を、こう解決したら顧客満足度が上がり、収益性が高まる。無駄なコストが省けるなど、顧客ごとに具体的な解決方法を提案する。

 顧客の話を丁寧に聞き込む手法で、商援隊は2004年7月の設立以来、わずか1年足らずの間に20社余りの顧客を開拓してきた。引き合いの件数も順調に増えており、今年度(05年6月期)末までに受注ベースで「累計50社のITを活用した問題解決にめどが立つ」(糸賀社長)と手応えを感じる。来年度(06年6月期)までには累計100-150社に顧客数を増やすことを計画している。

 すべてがスモールビジネスサーバーの標準機能だけで解決するとは限らない。必要に応じて業務アプリケーションに深く踏み込んだ提案をすることで、付加価値の高いサービスを展開していく方針だ。売り上げを重視するあまり、最初から重厚長大な提案をしては中小企業市場で受け入れられない。まずは安価で手軽なPCサーバー1台からの解決方法を提示し、信頼関係を構築してから、より深い提案につなげる。時間はかかるが、丁寧に問題点を聞き込んでいくことが中小企業市場を切り開いていく原動力になる。(安藤章司)
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