コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第6回 大阪府(1)

2005/05/16 20:42

週刊BCN 2005年05月16日vol.1088掲載

 他の産業と同様、情報サービス産業においても中小企業の比率が高い大阪。目先の仕事があるがゆえに、かえって新しい技術革新に踏み出せないのも中小企業に共通する悩みだ。しかし、勝ち組と負け組みが明確に二分化される状況が進展している。品質向上のための「余力がない」では済まない時代に入っている。中小企業ということをデメリットと受け止めるのではなく、メリットに転化する知恵とフットワークが求められている。(光と影PART IX・特別取材班)

人材不足と“国内のオフショア化” “負のスパイラル”断ち切るために

■小規模事業所が集中する大阪

 経済産業省が昨年11月にまとめた2003年版の「特定サービス産業実態調査」。情報サービス産業は、事業所数7380、従業員数56万7467人で、2002年比でいずれも微減ながら、年間売上高は14兆1706億円となり同1.4%の増加となった。

 都道府県別の状況をみると、事業所数と年間売上高のトップはいずれも東京都で、それぞれ2255事業所、8兆1458億円。大阪府は、事業所数は633事業所で東京都に次いで2位だが、年間売上高では東京都、神奈川県に次いで3位になっている。しかも、神奈川県の年間売上高が1兆8005億円であるのに対し、大阪府はほぼ半分の9437億円。業態別売上構成比をみると、大阪府の場合は全国平均に近く標準的な構成になっている。

 一方の神奈川県の場合、「情報処理サービス業」の割合が高く、「ソフトウェア業」の割合が低いという特別な構造になっている。しかし、事業所数と売上高の関係からみても、大阪府の情報サービス産業は規模の小さな事業所が多いということは、紛れもない事実だ。

 その大阪の情報サービス産業では、「負のスパイラル」の存在を指摘する関係者が少なくない。金融機関や大手メーカーがヘッドクォーターを首都圏に移す動きが続いていることも背景にある。しかし、それよりも大きな問題がある。

 「受注ソフトウェア開発などを含め、仕事がないわけではない。しかし、対応できる人がいない。このため、成約に至らない。結果的には仕事がないのと同じ」とは、ある中小ソフト開発事業者の声だ。情報サービス産業経営者のモチベーションが首都圏に比べ低いわけではない。事業規模の大小にかかわらず、前向きにビジネスを展開していきたい気持ちは同じだ。しかし、スキルチェンジやスキルアップを成し遂げた人材が圧倒的に不足している。

 新たな分野がビジネスとして立ち上がるのは、まず首都圏が最初になる。若干のタイムラグがあり、それが関西圏に及んでくる。しかし、首都圏では最初に手掛ける分、スキルアップなどの人材育成が認められるという側面がある。しかし、関西圏でビジネスが立ち上がる際には、ユーザーや受注者側にはすでに経験があるため、改めて人材育成からスタートできない。求められる人材は「即戦力」。しかし、そういう人材は大阪、関西では払底している。「かつて、Javaアプリケーションが立ち上がり始めた頃、対応できる人材を確保し、発注が出るのを待つべきだ、と指摘したことがある。 しかし、待ちきれずに首都圏に人を回してしまった。送り出した人材は帰ってこない。受注があっても対応できる人材がいない。経験者を募集してみても、プロジェクトにかかわった経験があるという程度に過ぎない」(業界関係者)ということになる。言葉は悪いが、結果的には受注できる仕事も、採用に応募する人材も「A級」ではないということだ。

 こういう状況に「国内のオフショア化」が輪をかける。「大手が東京で受注した開発案件は、負荷の平準化を図るため全国の事業者に振り分けられるが、大阪は素通りで九州や四国の企業に発注される。大阪は、なまじ単価が高いために見向きもされない」(中小ソフト開発事業者)という。「負のスパイラル」を断ち切ることが、大阪の情報サービス産業にとって焦眉の急となっている。

■「企業としての品質」高める動き

 そのためのアプローチは、始まっている。中小ソフト開発事業者が会員の中核となっている日本情報技術取引所(JIET、二上秀昭理事長)の関西本部では、プライバシーマークの取得に向けたセミナーをスタートさせた。東京の本部ではすでに開催した実績があり、これを大阪でも行うことにしたもので、会員企業の動きは積極的という。危機感の裏返しともいえるが、受注した仕事で手一杯という状況を突き破り、スキルアップなども含めた「企業としての品質」を高めようという意欲が前面に出るようになった証左でもある。

 このほかにも、JIET関西本部ではマイクロソフト日本法人(マイケル・ローディング社長)と連携し、「SQLサーバー2005」と「ビジュアルスタジオ2005」の説明会を会員向けフォーラムとして開催する。こちらも告知後すぐに申し込み定員に達する状況となっている。

 「中小のソフトハウスが多いため、単独ではプライバシーマークの問題に対応できなかったり、新しい製品や技術の情報を得られなかったりすることもある。大手ベンダーやシステムインテグレータ(SI)とは異なり、こうした働きかけがあることが、前向きな意欲のきっかけとなる」(佐々木道正JIET専務理事)とみている。

 一方、これとは異なるアプローチを行っているのが、近畿情報システム産業協議会(KISA、吉永良会長)。昨年夏には、ロシアにミッションを派遣し、モスクワとサンクトぺテルブルグのIT産業との間で窓口を開設した。これまでにもオーストラリアやカナダでそれぞれ2か所のほか、上海、香港、ソウルなどで、現地のIT産業団体との窓口を作っている。今年も秋にスウェーデンを訪問し、現地のIT産業団体との交流を図る計画だ。

 「大手を中心とした既存の業務系システムの流れのなかでは、夢がない。自分達の持つ技術が産業のIT化のなかでどう生かされるかを考えていく」(青木隆夫KISA事務局長)という。

 ロシアの場合、レベルの高いエンジニアがITの世界に入ってきているが、産業が活性化していないため、活躍の場が広がっていない。このため、欧米諸国の企業が同国のIT産業にアプローチしているものの、日本からは皆無に等しい。KISAとしては、大阪を中心とした関西のIT産業との橋渡しをすることで、互いが独自性を持った企業として発展できるような関係づくりを目指している。「大阪のIT産業も、広いネットワークを持つことで、いつ、どこでも、どんなニーズにも対応できるようにならないといけない」(青木事務局長)ということだ。
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