ITIL創生期 変わるITサービス

<ITIL創生期 変わるITサービス>5.ユーザー企業からITILが浸透

2005/05/16 16:18

週刊BCN 2005年05月16日vol.1088掲載

 ITシステムの利用者と保守・運用サポート側でサービスの品質を保証する制度「SLA(サービスレベルアグリーメント)」を締結する際、「ITILベースに移行したい」との声が、利用者からあがるケースが増えている。

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の須部恒・ITコンサルティング本部ITSMコンサルティング部部長は、「少なくとも、国内大手企業20社程度は保守・運用サポートをITILベースに移行した」と、現状を分析。その上で、「ここ2、3年で多くの企業がそこへシフトするはず」と、ITILが先進的ユーザー企業から拡大すると見ている。

 米HPは、ITIL作成に際してベストプラクティスを複数提供した1社。それだけに、ITILの取り組みは日本HPでも早く、1996年にはITILベースのITSM(ITサービスマネジメント)を提供し始めた。ただ、「当時は認知度が低く、国内で数社のシステムインテグレータがこのITSMを採用したにすぎなかった」(須部部長)という。

 しかし、欧米企業でITILが徐々に採用され、世界の統合運用管理ソフトウェアなどでITILに記述された「インシデント管理」や「変更管理」などに一部準拠するツールが登場したことで、「ITILのサービスサポートの一部をツールでサポートできるようになった」(同)という。このため、ITILが急速に注目され始めたと分析している。

 「機は熟した」と、日本HPは今年1月、ITILに準拠したサービスの初期導入を支援する「オープン・ビュー・サービスデスク(OVSD)ラピッド構築サービス」の受注を開始した。

 ITILは包括的なガイドラインにすぎないため、実際の導入時には、運用のためのプロセス設計や文書化を最初から行う必要があり、実践までのハードルが高かった。OVSDラピッド構築は、導入プロセスをテンプレート化して範囲を限定することで、コンサルティングを含め通常の構築サービスに比べ半分以下の価格でITIL環境を作ることができるのが売り。

 企業が自社の保守・運用サポートの現状を正しく認識するために、OVSDラピッド構築のような客観的なアセスメント(評価)を活用する例は増えているようだ。アセスメントの実施では、英国の政府機関でITILの著作権を所有するOGC(オフィス・ガバメント・コマース)が提供するツールなどを使う方法もあるが、システム開発から保守・運用サポートのノウハウのあるベンダーが独自開発したアセスメントツールを利用する例が増えている。

 ITILのアセスメントは、NECや富士通、日立製作所、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)などで広く提供している。日本IBMは、「重要顧客である金融機関を中心に当社のITILに関するコンサルティングを希望する企業が増えた」(大塚哲夫・ストラテジー&コンピテンシーITサービスマネジメント推進担当)と、ITILが国内で浸透していることを強調する。
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