総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>30.大日本晒染(下)

2005/06/06 16:18

週刊BCN 2005年06月06日vol.1091掲載

 染色加工などを手がける大日本晒染は、情報システムを刷新することで国際競争力を大幅に高めた。生産管理などの情報を、これまでの月次で集計する手法から、日次で把握できるようにした。これにより顧客の要望や市場の動きにそれまで以上に素早く対応できるようになった。今後は、工場内で稼働する約30台の大小さまざまな機械の詳細な稼働状況を統合的に管理することで、作業の効率化や納期短縮を目指す。

システム刷新が高付加価値製品増に貢献

 大日本晒染は、染色やシルケット加工、樹脂加工、風合い加工など6つの作業部門があり、工場は月曜日から金曜日まで24時間休むことなく稼働している。従業員は約100人。生産設備には年間で数千万円から億円単位の大きな投資を行っており、投資対効果を高めるには、効率良く機械を稼働させることが欠かせない。しかし、価格の安い大量生産品の多くは中国など海外メーカーへと流れており、単純に量産品を加工するだけでは太刀打ちできない。

 そこで、より付加価値の高い加工や少量多品種への対応など、従来のビジネスモデルの変革を進めると同時に、情報システムの面でも、処理能力の限界に直面していたオフコンから完全に脱却し、2004年5月までにオープン化へと踏み切った。これにより、顧客の要望に対応する「スピードと作業効率の高さではどこにも負けない」(喜納浩・常務取締役社長代行)強い経営体質をつくりあげた。

 IT化の推進には壁もあった。多岐にわたる生地の種類や無限に近い仕上がり具合の種類、発注元との取引方法の柔軟化など、複雑な染色加工ビジネスを既存のパッケージ化された生産管理システムに当てはめることは不可能に近かった。管理の効率性を追求し過ぎて、業務を既存のパッケージに当てはめる手法を採用すれば“あらゆる需要に迅速かつ柔軟に対応する”という国内メーカーとしての強みが損なわれることにもなりかねない。

 統一的、画一的なシステムで対応できる仕事ならば、大量生産を得意とする中国をはじめとした海外メーカーとの競争にさらされる。単純に生産力だけで競えば国内メーカーは不利だ。大日本晒染では、紡績業界のIT化で実績のある倉敷紡績(クラボウ)エレクトロニクス事業部をITパートナーに選び、自社に最適化したオリジナルの生産管理システムを、およそ1年かけて開発した。

 システム開発で最も重視した点の1つは、販売管理や在庫管理などの情報をリアルタイムに集計する処理能力の向上である。これまでのオフコンをベースとしたシステムでは、少量多品種による情報量の爆発的な増大に対応しきれず、処理が追いつかない状態が続いた。顧客から納期や生産状況についての問い合わせがあっても、即座に答えられないこともあった。

 海外メーカーに打ち勝ち、国際競争力を高めていくキーワードとして、喜納常務は「サプライズ(驚き)を起こす」ことを挙げる。情報システムを刷新して生産の柔軟性や作業効率を大幅に向上させたのに加え、綿密な市場調査に基づく新商品の開発力を高めることで、顧客の期待を超える価値を創り出す。この価値が顧客にサプライズを与え、結果的に収益拡大に結びつくと考える。

 近年の代表的な特殊加工としてはシラ加工やムラ染め、ワッシャー仕上げ、コーティングなど、「伝統の技と最新の技術」(喜納常務)で市場から高い評価を獲得してきた。外観や肌触りが従来と違う新しい加工を施すとなれば、それだけ加工工程が増えて手間もかかる。だが、こうした高い付加価値の加工製品を増やすことが差別化に結びつき、顧客に次々と“サプライズ”を与える。

 こうした複雑な生産工程を管理する情報システムを刷新したことで、従来の月次情報から、今では日次の情報をリアルタイムに把握できるようになった。スピード経営を推し進める上で大いに役立っている。大日本晒染では、「将来は機械の稼働状況など細部に至るまで“時間単位”で把握できる」(同)システムに拡張することで競争力を高めていく方針だ。

 大日本晒染の昨年度(04年12月期)の単体売上高は、顧客の要望にきめ細かく対応する経営努力が評価されるなどして前年度比約8%増の12億2000万円だった。今年度(05年12月期)の第1四半期(1-3月)の売上高は、前年同期比12%増で推移しており、通年で少なくとも売上高13億円を上回ることが予想されている。

 来年度(06年12月期)は第50期を迎える。激しい国際競争に直面し、構造改革を進める国内繊維産業。その中でITを活用した攻めの経営を実践することで、次の50年に勝ち残るべく、ビジネスの基盤強化に力を入れる。(安藤章司)
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