総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>34.北海道銀行(上)

2005/07/04 16:18

週刊BCN 2005年07月04日vol.1095掲載

 北海道銀行(札幌市、堰八義博頭取)は、顧客との遠隔相談システムや支店との会議、印鑑照合などに光ケーブルやADSLなどのブロードバンドネットワークを積極的に活用して、サービスレベルの向上に努めている。1990年初めには約3300人の行員を抱えていた同行だが、バブル崩壊後の北海道経済の冷え込みや金融再編などを受けて、昨年度(05年3月期)末時点で全行員を約1700人まで絞り込んだ。しかしこの間、営業拠点の数は維持しており、人手が減った分はITを駆使することで補った。さらに、勘定系システムをアウトソーシングすることで固定費を削減した。

道内拠点をブロードバンドで結ぶ

 バブル崩壊直後の90年代初めの支店などの営業拠点数は約140か所だった。これに対して、04年3月末時点の拠点数は134か所でほとんど減っていない。ところが、行員は90年代初めの約3300人から約1700人へと半分程度にスリム化した。来年度(07年3月期)末までには、自然減などで全行員を約1600人にする計画を立てる。人手が減った分だけサービスレベルは落ちる可能性があったが、ITを活用することで「サービスレベルは逆に向上している」(小林裕幸・システム企画グループグループリーダー調査役)と、胸を張る。

 顧客に好評なサービスの1つは、04年度(05年3月期)に順次導入したブロードバンドネットワークを活用した遠隔相談システムである。銀行の重要な業務の1つに資産運用やローンなどの金融商品に関する相談業務がある。この業務では専門的で高度な金融商品の知識が求められる。広大な面積の北海道に散在する134か所の拠点すべてに専門知識を持つ行員を配置するのは不可能に近い。顧客の立場からすれば、相談をするなら北海道銀行で最もレベルの高い専門担当者と話がしたいという要望が根強くある。

 遠隔相談システムでは、顧客がブロードバンドを使ったテレビ電話で、札幌本店などに勤務する高度な専門知識を持つ行員と顔を見ながらの会話を可能にした。互いの表情がよく分かり、従来の電話相談よりも親近感が得られるようになったことで、顧客から高い評価を得た。

 窓口業務が終了する午後3時以降は、行内のテレビ会議のシステムとして活用している。同システムのプラットフォームにはマイクロソフトのウィンドウズを採用した。

 テレビ会議を導入する前は、電子メールや紙ベースの文字を使った情報共有が中心だったが、担当者の感情が伝わりにくいという欠点があった。今では、文字による情報共有に加えて、テレビ電話を活用することで、情報伝達の効率が格段に向上した。

 この遠隔相談システムや行内テレビ会議システムの導入では、札幌市内のベンチャー企業であるシステム・ケイ(鳴海鼓大社長)に発注した。大手システムベンダーに発注する方法もあったが、システム・ケイがインターネットを使った映像伝達に関する高い技術を持っていたことや北海道銀行の取引先でもあったことが決め手となった。北海道を地元とする銀行だけに、「道内の企業に発注できる案件は、できるだけ道内に発注する」(同)ことが、北海道経済の活性化につながり、ひいては北海道銀行のビジネス拡大に結びつくと考える。

 ブロードバンドを使った遠隔相談やテレビ会議システムに先立ち、北海道銀行では「印鑑照会システム」でもブロードバンドの活用に踏み切った。銀行業務の中には、顧客が持ってきた印鑑と銀行が管理している印鑑原簿の印影を照合し、印影が一致しているかどうかを確かめる作業がある。以前は取り引きしている店に行かなければ印鑑原簿との照合ができなかったが、03年度末までにブロードバンドを使って印影の照合をするシステムを導入したことで、取引店まで足を運んで印影照合をする必要がなくなった。

 また、同じく03年度末までに約130か所の店舗単位で管理していた営業成績をエリアで管理する方式に変えた。店単位で営業成績を管理する従来方式では、営業エリアが重複したり、近くに店舗があるにもかかわらず、遠くの店舗から営業に足を伸ばすなどの不効率が発生していた。これを全道10数エリアに区分し、エリア単位で営業成績を管理する方式を採用した。システム的には、これまで店番号で管理していた顧客を、顧客の住所で管理する方式に切り替えた。システムの切り替えには5年近くかかったが、店同士の営業範囲の交錯や無駄がなくなり、業務効率を高めることに成功した。

 同行では、勘定系システムを98年にNTTデータにアウトソーシングし、ホストコンピュータの維持管理費用を大幅に削減している。さらに、07年5月をめどに地方銀行約10行が共同で利用する「地銀向け共同利用システム」への移行に向けて準備を進めるなど、先進的なIT活用に取り組む。勘定系システムを複数の地銀と共同利用することで、維持運用費のさらなる削減や新商品やサービスにかかるシステム開発のコストを軽減し、「メガバンクに負けない金融商品の開発」(同)に取り組む考えだ。

 現在は、遠隔相談や印鑑照合などの情報系システムは、インターネットのブロードバンド網を活用しているが、勘定系システムは情報セキュリティの面から割高な専用回線網を使っている。将来は、より安全なブロードバンド通信技術の開発が期待できることから、勘定系を含めたすべての通信をIPネットワークベースのブロードバンド回線への切り替えを検討している。厳しい競争に勝ち残るため、ITを活用した業務革新を積極的に推し進める。次回は、北海道銀行に技術力を高く評価されたシステム・ケイの戦略を検証する。(安藤章司)
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