e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>43.情報フロンティア研究会報告書(上)

2005/07/11 16:18

週刊BCN 2005年07月11日vol.1096掲載

 総務省が先月28日に公表した「情報フロンティア研究会報告書」(國領二郎座長=慶應義塾大学教授)が、最近のe-Japan関連の報告書では珍しく一般紙を含めてさまざまなメディアに取り上げられ、注目を集めた。ここ1-2年で急速に普及してきたブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサイト)に言及した部分に大きな関心が示されたわけだが、果たして報告書はどのような問題を提起したのか。改めてネット社会の問題点を探ってみる。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 発端は、読売新聞が先月14日付で掲載した「子どもはみなブログを持て!」という見出しの記事だった。日本のITを強化する方法として、小中学生にブログを書かせようという内容を盛り込んだ報告書を総務省がまとめたと報じた。これに対してインターネットのブログ上でさまざまな論評が巻き起こり、その様子を再び読売新聞が23日付で「子どもにブログぅ?!…ブロガーたちが大ブーイング」との見出しの記事で紹介した。さらに報告書が正式発表になる前日の27日に共同通信が「実名でのネット活用を促がす総務省『悪の温床』化防止」との記事を配信。再び物議を醸すことになった。

 公表された報告書を読むと、「ブログやSNSの仕組みを学校に導入することを提案する」と確かに書いてある。しかし「学校のなかでセキュア(安全)なネットワークを整備したうえで」の話で、「人と人との間のコミュニケーション手法を学び、他人と交流する能力を養う」のが狙い。大人と同じネット上で、小中学生にもブログを持たせようとしているわけではなさそうだ。“実名”問題に関しては、学校の中のセキュアなネット上で、児童・生徒が“実名”で交流することで、「ネット上での誹謗中傷やプライバシー侵害に対する実地的な安全の守り方を学ぶ」と提言した部分があるほか、「日本の社会では情報ネットワークが匿名であるという認識に基づいて色々な活動が行われているがゆえに、社会生活全般においてICTが利活用されていく活力が高まらず、社会心理的なデジタルデバイトと言うべき、サイバースペースへの忌避感が拡がっている」との記述もある。インターネット上で流される自殺や爆発物製造の方法といった有害情報を規制する動きが活発化しているが、報告書を読む限り「実名を促す」との表現は飛躍しすぎのように思える。

 今回の報告書への反響について、事務局を担当した内藤茂雄・情報通信政策局情報通信政策課課長補佐は、「ブログやSNSの部分ばかりが注目されるとは予想できなかった」と少々戸惑い気味。一方で、報告書の副題にある「個と個の連携を通じて知識創造プロセスの進化がもたらされる社会を目指して」とも言える現象がインターネット上で展開されたことに着目する。従来であれば、マスメディアが流した情報を、個人は一方的に受け入れるしかなかったが、今回はブログで記事に対する個人の論評が加えられ、次に総務省のホームページに掲載されていた報告書(案)や研究会メンバーの評論などを含めて検証が行われ、ネット上で議論が収れんしていくというプロセスをたどった。もちろん報告書に明文化されていなくても、記者の取材に対して口頭で解釈を述べる場合もあり、公開資料だけで判断した内容が必ず正しいとは言えない。しかし、トラックバック機能のあるブログによって、個と個が連携しながら情報収集や議論を通じて知識創造プロセスが発生しやすいことは、報告書が指摘するように「情報通信ネットワーク構造の分散化」がもたらした新しい現象と言えそうである。

 2001年にe-Japan戦略がスタートした当初、米国や韓国などに比べて日本のIT化の遅れが指摘され、「世界最先端のIT国家」を目指し、国を挙げて積極的なIT投資が実施されてきた。その一方で、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)や個人情報保護などの問題も次々に表面化し、「日本のネット利用者にはICTの利活用に対する忌避感とでもゆうべき茫然とした不信感がある」という状況に陥っている。人間が経済社会活動を展開していくうえで不可欠なのは「信用」だろう。その「信用」の仕組みをサイバースペース上で構築する作業を怠ってきたのではないだろうか。
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