システム開発の効率化最前線

<システム開発の効率化最前線>2.日立ソフトウェアエンジニアリング .NET技術者2000人を育成

2005/08/01 20:29

週刊BCN 2005年08月01日vol.1099掲載

 日立ソフトウェアエンジニアリング(日立ソフト、小川健夫代表執行役執行役社長)は、.NET関連エンジニアを来年度(2007年3月期)末までに2000人に増やす。これまでに約600人の.NETエンジニアを育成してきたが、.NET関連ビジネスが急拡大していることを踏まえ、人材育成に力を入れる。開発手法の見直しやエンジニアの技術水準を高めることで、経営課題となっている不採算案件の発生防止に取り組む。(安藤章司●取材/文)

急拡大するビジネスに対応

■7月に「.NETセンタ」設立

 日立ソフトでは、マイクロソフトのプラットフォーム「.NETフレームワーク」をベースとしたシステム開発案件が急増している。.NETアーキテクチャが得意とするウェブ対応のアプリケーションが普及したことや、基幹業務システムへの.NETフレームワークの採用が進んだことから、今年度第1四半期(2005年4-6月期)の.NET関連の売上高は、すでに昨年度(05年3月期)通期の水準を超えている。このままのペースで推移すれば、今年度(06年3月期)の.NET関連売上高は前年度比約7倍の100億円に達する見込みだ。

 .NETに対する旺盛な需要に応えるため、日立ソフトでは.NET関連技術者を全社横断的に集約した専門組織「.NETセンタ」を今年7月16日付で設立した。急増する.NET関連のシステム開発案件の技術的な支援を行うと同時に、人材の育成や開発手法の考案、開発ツールの提供を通じ、不採算案件や失敗プロジェクトを未然に防ぐ狙いだ。赤字プロジェクトは経営を揺るがす要因として大きな問題となっているだけに、エンジニアの技術力向上やコミュニケーション能力の強化、開発ツールの提供、開発手順の確立など、多方面から問題の解決に臨む。

 日立ソフトは1996年にマイクロソフトと業務提携し、以来、ウィンドウズプラットフォーム上での業務システム開発に力を入れてきた。00年にはウィンドウズ関連ビジネスの拡大を目的としたマーケティング組織「エックスビジネスソリューションセンタ」をマイクロソフトと共同で設立。同センタがマーケティングや受注支援など営業的な要素が強かったのに対し、今回設立した「.NETセンタ」は、主に技術的な課題を解決することに重点を置くことで、両組織の相互補完を進める。


■アーキテクトを重点的に育成

 「.NETセンタ」は、昨年10月に開設した.NETエンジニアの育成機関「.NET道場」の運営も担う。この道場では、.NETフレームワークを活用した業務システムを開発するアーキテクトやプロジェクトマネージャー、プログラマーなど、.NET関連のエンジニアを来年度(07年3月期)末までに2000人に増やすことを目標に掲げている。

 すでに約600人の.NETエンジニアを育成してきたが、急増する.NET案件に対応するため、.NETエンジニアを大幅に増員する考えだ。

 もちろん、頭数を増やすだけが目的ではなく、ソフトウェア開発プロジェクトの中核となるアーキテクトの育成にも重点を置いた人材教育を実施する。複数のプロジェクトを取りまとめ、ソフトウェアの骨格部分を構築する高い技能とコミュニケーション能力が求められるアーキテクトの育成には時間がかかる。「教室での勉強だけでアーキテクトになれるわけではない。実際のプロジェクトで失敗や成功を経験してこそ実力がついてくる」(正村勉・技術開発本部.NETセンタセンタ長)と、現場重視の教育方針を掲げる。

 日立ソフトのエンジニアのうち、約3700人がマイクロソフトの何らかの認定資格を持っている。今回はこのうち約2000人を「.NETセンタ」が運営する「.NET道場」で育成する。この中で.NETのアーキテクトに育つのは「良くて1割程度」(同)と狭き門になる見通しで、今後3年程度をめどに約200人の.NETアーキテクトを輩出する計画を立てている。

 現在、日立ソフトのエンジニアのうち.NETアーキテクトは50人程度と見られ、今回設立した「.NETセンタ」にはこのうち約30人の.NETアーキテクトが主力メンバーとして参加している。

■開発効率高め不採算案件の発生を防ぐ

 人材育成と同時に、開発支援ツールの開発にも力を入れている。日立ソフトでは、独自のユーザーインタフェース開発支援ツール「anyWarp for .NET Framework(エニーワープフォードットネットフレームワーク)」を02年に開発。現在はビジネスロジック開発支援ツール「BizWarp Core(ビズワープコア)」の開発を進めている。ビズワープコアは来年度から本格的に活用していく予定だ。

 「エニーワープ」がユーザーインタフェースを開発する支援ツールであるのに対し、「ビズワープコア」はビジネスロジック部分の開発支援を行う点が大きく異なる。日立ソフトでは、ユーザーインタフェースとビジネスロジックを別々に開発する手法を確立することで、開発効率の大幅な向上を目指す。

 これまで、ユーザーインタフェースとビジネスロジックは相互に連携しながら開発を進めることが多かった。このため、顧客の要望などでユーザーインタフェース部分で変更があると、ビジネスロジックも手直ししなければならないなど無駄が生じていた。「エニーワープ」では、ユーザーインタフェースとビジネスロジックとの間に「ビジネスファサード層」という疑似的なビジネスロジックを挿入する。これによってユーザーインタフェースのみを切り出して開発できるようにした。

 ビジネスロジックはユーザーインタフェースと同期をとることなく独自に開発を進められるため、ユーザーインタフェースの変更による影響を「最小限にとどめることができる」(秋吉利彰・営業技術本部.NETセンタ主任技師)と、開発効率の大幅な改善が期待できるという。開発効率が高まることで不採算案件や失敗プロジェクトの防止も見込めるわけだ。

 また、標準開発手順などのドキュメントを整備することで、日立ソフト独自の「.NETシステム共通基盤」の構築を進める。

 「エニーワープ」や「ビズワープコア」などの開発支援ツールが“武器”だとすれば、.NETシステム共通基盤では、その“武器”の操作方法や使う順番、投入するタイミングなどを詳細に記す。人材育成機関の「.NET道場」で学ぶエンジニアは、.NETシステムの開発手順を示した共通基盤を理解することで、効率的なツールの活用が可能になる。

 .NETフレームワークを基盤とする.NETアーキテクチャは、開発生産性の高さや拡張性、安定性の良さから基幹業務システムへの採用が相次いでいる。今後、業務アプリケーション開発アーキテクチャの主流になると見られるSOA(サービス指向アーキテクチャ)を実現するプラットフォームとしても需要が高まっており、.NET関連ビジネスは拡大の一途をたどっている。

 日立ソフトでは、こうした需要に応える人材の育成や開発支援ツールの開発に積極的に取り組むことで、失敗プロジェクトを防止し、.NET事業の拡大を強力に推進していく。
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