e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>49.GISの利用定着化

2005/08/29 16:18

週刊BCN 2005年08月29日vol.1102掲載

 国土交通省が2003年度から3か年事業として取り組んでいる「GIS(地理情報システム)利用定着化事業」の中間報告会がこのほど開催された。コメンテーターとして出席した学識者からは、報告が行われた4つの実証調査事業について高く評価する発言がある一方で、総務省が今年5月から取り組みを始めた地域SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)や、7月にスタートしたグーグルの新サービス「グーグルマップ」などに期待する声も聞かれた。02年4月に策定された「GISアクションプログラム2002-2005」も最終年度を迎え、来年から新たな動きが出てきそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 政府は、GISが行政、産業、国民生活の幅広い分野で新しい質の高いサービスを生み出し得る技術と捉えて整備・普及を推進してきたが、利活用の面では大きく2つの役割が考えられてきた。1つは、行政のあらゆる分野で使われている地図情報を統合し一元管理することで業務効率化を目指す「統合型GIS」の実現。もう1つは、地図を使って空間情報を共有化できるコミュニケーションツールとしてのGISの利用である。

 国土交通省と国土地理院では、縮尺2万5000分の1の電子地図をベースにした「電子国土ポータル」を03年7月に開設するとともに、GISを使って一般ユーザーに利用してもらえるアプリケーションの可能性を模索するために、GIS利用定着化事業を推進してきた。

 今回報告を行った4つのプロジェクトは、(財)阪神淡路大震災記念協会の「阪神・淡路大震災“わたしたちの復興”プロジェクト」、(財)日本野鳥の会の「全国野鳥観察ネットワーク」、(財)藤沢市産業振興財団の「誰もが使えて仕事を生み出すGIS:地図ホームページ」、国際航業の「みんなが調べて発表して交流する教育用ウェブGIS」。いずれも地図の上に情報提供者がさまざまな情報を張り付けていくことで、参加者が情報を共有できる仕組みを作ろうという試みである。

 しかし、インターネット上の不特定多数による情報共有は、地方自治体が運営する電子会議室などを見ても、問題発言などで荒らされるか、閑古鳥が鳴いているといったケースが多く、成功している事例は少ないのが現状。GISの基盤だけを提供してもコミュニケーションツールとして上手く機能させるのは難しいとの意見がある一方で、アンケート調査からは、GISを観光・地域情報、趣味・遊びなどのコミュニケーションツールとして利用したいとの声は多い。

 総務省では、インターネット上で活発な情報発信・交流を生んでいるブログやSNSに注目して、「ICTを活用した地域社会への住民参画のあり方に関する研究会」(石井威望座長=東大名誉教授)を立ち上げた。今月、NTTデータを委託事業者に選定して、東京都千代田区と新潟県長岡市で地域SNS調査研究事業をスタートする。新しい地域のコミュニケーションツールとして地域SNSの可能性を探り、その中にGIS機能を組み込もうという方向だ。

 シンポジウムでは、API(アプリケーションプログラムインタフェース)を無償提供してサービスを開始したグーグルマップの戦略に注目する意見も出された。国土交通省でも今年3月から電子国土ウェブシステムのAPIなど技術情報を民間企業に対しても公開に踏み切っているが、民間が提供する住宅地図レベルの地図情報を利用できる環境が提供され始めたことの意義は大きいという見方だ。GIS機能がモジュールとして、ブログやSNSなどに組み込まれることで、今後新しいサービスやビジネスモデルが生まれる可能性が指摘されており、国の政策も民間の新しい動きを積極的に支援する方向へと転換していくことが求められることになりそうだ。

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