e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>51.官民連携ポータル(下)

2005/09/12 16:18

週刊BCN 2005年09月12日vol.1104掲載

 引っ越し手続きのポータルサイトが、今年1月に関西地区にも開設された。関西経済界が中心になって設立した「関西手続きワンストップ協議会」(事務局・松下電器産業)が立ち上げた「関西引越し手続きサービス」だ。幹事会員には松下のほか、大阪ガス、関西電力、NTT西日本、NHK、金融系としてJCB、三井住友カード、日本信販の3社、データセンターを運営する財団法人関西情報・産業活性化センターの計9団体が参加。ワンストップサービスのビジネスモデル確立に向けて会員拡大に取り組んでいる。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 今回のプロジェクトの発端は、2003年2月に松下が受託開発することになった経済産業省の官民連携ポータル事業「創業ナビ」にある。松下では、その成果を踏まえて、10月に関西経済団体連合会の関西IT推進本部に「関西手続きワンストッププロジェクト」を提案。第1ステップとして引っ越し手続きの一元化に的を絞って、大阪ガス、関西電力、NTT西日本の公益事業者3社を中心に検討を進めてきた。

 最初に方向性を決めたのが、運営主体を“協議会”方式にすること。前回紹介した東京電力の引越れんらく帳の場合は、東京電力が顧客サービス、社会貢献の一環として開発・運営費用を持ち出す形でサイトを立ち上げてきたわけだが、同様のやり方では特定企業のリスク負担が重くなってしまう。さらに引越れんらく帳では通信事業分野で東電と競合関係にあるNTT東日本がリンクを張るだけにとどめている状況があり、今後できるだけ幅広く参加事業者を募っていくうえでも、協議会という中立的な組織の方が良いと判断した。

 データ連携については、東電と同様に氏名・住所などの共通情報を入力したあとに、各連係事業者のインターネット受付ページに飛ぶ「ウェブリンク方式」を採用した。ただし、東電が共通情報だけは自らが個人情報を管理する延長線上と考えて一定期間保管することにしたのに対して、関西手続きワンストップ協議会では共通情報を連係事業者に引き継いだあとは保管せずに消去することにした。協議会という組織では、万一個人情報が流出した場合に責任を取ることが難しいためだ。東電では、インターネット受付システムを持たない事業者に対して、データを受け付けてから転送するASP(アプリケーションの期間貸し)サービスを04年から始めており、個人情報取り扱いの考え方によってサービスに違いが生じている。

 官民連係ポータルが成功するかどうかのカギを握るのは収益モデルにある。関西手続きワンストップ協議会でも、サービスを長続きさせていくためのビジネスモデル確立を重視しており、幹事会員が年100万円、一般会員が同60万円、研究会などの情報交換の場に参加できる情報会員が同12万円を負担する年会費制を導入。「年2000万円の運営費を確保できれば、3年ぐらいで初期投資を含めて採算が見えてくるだろう」(白川千治事務局長)と期待する。そのためには電気、ガスなどの公益企業だけでなく一般の民間企業を含めて幅広く会員を募集する必要があるが、「公共機関に参加してもらえない原因になっている」(白川事務局長)との悩みも抱える。関東では、早い段階で東京都水道局がポータルへの参加を決め、川崎市、横須賀市、昭島市などの水道局も追随したが、関西地区では公共機関の参加はゼロ。ビジネス重視の姿勢や、参加事業者がまだ偏っている現状を見て、公共機関としての公平性を理由に参加を見合わせるという。

 経産省では、引っ越し手続きで官民連携ポータル事業の実証実験を今年度中に実施する計画だが、総務省も協力して地方自治体と民間のデータ連携を図るのが最大のポイントに位置づけられている。官民連携を促進するには、まだ多くの課題をクリアする必要がありそうだ。
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