コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第23回 東北(1)

2005/09/19 16:05

週刊BCN 2005年09月19日vol.1105掲載

 東北地方の情報サービス産業の凋落傾向に歯止めがかからない。経済産業省がまとめた産業動態統計の情報サービス産業の売上高推移を見てもそれは明らかだ。東北地方に拠点を置く大手ベンダーや地元システムインテグレータ(SI)は、「需要が落ち込んでいるが、中小企業のIT化ニーズなど掘り起こせば出てくる」、「下請けへの依存度が高い。東北に需要を引き寄せるような特徴付けが必要」などと問題意識は高い。こうした意識のもと、東北地方のSI業界を活性化するため、様々な取り組みがスタートした。(光と影PART IX・特別取材班)

下請け構造脱却と凋落傾向に歯止め 産官学のコンソーシアムが始動

■幅広い産業とIT産業のマッチングへ

photo 「東北を一括りにするわけにはいかない。6県それぞれの特徴がある」(鈴木茂雄・経済産業省東北経済産業局地域経済部情報・製造産業課バイオ産業振興室課長補佐)というように、東北地方は面積も広ければ各県の産業構造も違う。IT産業に的を絞れば、各県それぞれに半導体工場や電子部品産業など大手メーカーが工場進出しており、地元経済への貢献度は高い。しかし、情報サービス産業からみれば、依然として下請け依存体質という特徴がある。宮城県には仙台市を中心にソフト開発企業やSIの数が多い。しかし、全体の売上高の30%は「同業者向け」、つまり「下請け」が占めている。

 下請けでも力のあるSIならばまだ救われる。だが、多くが社員数も数十人以下で、元請け企業の〝価格協力要請〟という名の値下げ圧力に抵抗するだけのパワーを持ち合わせていない。もちろん東北地方だけではなく、全国的に見ても価格ダウンの影響は小さくないが、東北地方の情報サービス産業売上高が2年連続でマイナスとなっていることからも、その度合いの強さがわかる。

 「中心となる仙台市自体〝支店経済〟に依存している」(千葉康典・東北経産局地域経済部情報・製造産業課バイオ産業振興室課長)というのは、例えば北海道札幌市でも共通だろう。とはいえ、距離的な近さという点で地元SIトップが言うように、「距離の近さゆえに、ほとんど首都圏のニーズに対応する形が出来上がっている」というのが東北地方の情報サービス産業の姿のようだ。

 2004年度までは、自治体合併による情報システム統合や電子自治体構築といった〝特需〟が発生したことで、システム構築の案件は多く、一部には「人が足りないほど多忙」(地元SI首脳)という企業もある。しかし、財政難によるIT投資抑制や地方の中堅・中小企業のIT化の遅れなどで、収益に貢献するようなプロジェクトには恵まれなかった、というのが実感だ。

 東北経産局でも、「IT産業振興のための施策を打たなければならない」という危機感がある。東北経産局は他の地方経産局のように「情報政策課」といった組織にはなっていない。今年4月から現在のような形となった。「むしろこの形を生かして、幅広い産業とIT産業のマッチングを目指したい」(高橋哲夫・東北経産局地域経済部情報・製造産業課総括係長)という。

 「IT化のニーズがないわけではない。政策的にもどういうふうに誘導していくかが知恵の出しどころだ」(東北経産局地域経済部情報・製造産業課・中山陽輔氏)と、東北経産局としても東北6県の市場を分析し、効果的な施策展開を目指している。官主導のITSSP(戦略的情報化投資促進事業)だけでなく、昨年12月には官民による「IT経営応援隊事業」もスタートした。

 また、東北経産局、総務省東北総合通信局、農林水産省東北農政局、国土交通省東北地方整備局が合同で行う「地域情報化所管省庁合同施策説明会」も、これまでは自治体向けと民間向けにセッションを分けていたが、10月6日に開く第9回説明会では1度に行うことにした。説明会の効率化もさることながら、マッチングの機会を増やす狙いがあるという。

■独自技術育成し“東北発”をアピール

 企業側としても、市場を活性化することが下請け構造から脱却し、ビジネス拡大を図る上で重要であるという認識では一致している。そうした思惑を合致させることで生まれてきたのが、産官学コンソーシアムによるソフト産業の底上げだ。

 仙台応用情報学研究振興財団理事長などを務める野口正一・東北大学名誉教授は、「下請け中心では、東北地方のソフト開発産業は衰退していくだけ。独自の技術を育成して、〝東北発〟としてアピールしていかなければならない」と、同じように東北地方のソフト産業の未来に警鐘を鳴らす1人。この野口・東北大名誉教授を理事長に、今年5月23日付で発足したのが、「東北ITクラスター・イニシアチブ(TIC)」である。

 TICは、宮城、山形、福島の南東北3県を対象にソフト産業振興を狙ったコンソーシアム。東北経産局や東北総通局、宮城県情報サービス産業協会(MISA)、山形県情報産業協会(YIIA)、仙台応用情報学研究振興財団など9団体が名を連ね、NECソフトウェア東北、NTTデータ東北、ソニーブロードバンドソリューション、東北電力系の東北インフォメーション・システムズ、日本オラクル、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、マイクロソフトなど大手ベンダーが賛助会員に参加する。すでに地元企業40社以上が参加を決めている。
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