経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>9.山崎文栄堂

2005/10/03 20:29

週刊BCN 2005年10月03日vol.1107掲載

 文具・オフィス家具販売の山崎文栄堂(山崎登社長)は、ITを巧みに活用して業績を伸ばしている。一時は業績が頭打ちになったこともあったが、問題点を的確に洗い出して大胆な経営改革を実行。1995年当時の年商約8000万円に対して、昨年度(05年8月期)の売上高は30倍余りの約25億円に伸ばした。

10年で売上高を30倍に

 95年、山崎文栄堂は厳しい経営環境の中に身を置いていた。本社を構える東京都渋谷区は全国有数の商業集積地で、資本力のある総合小売店が文具やオフィス家具の販売を本格化すると、たちまち売り上げが頭打ちになった。こうしたなか、打開策として選択したのがEC(電子商取引)を活用してメーカーから顧客へ直接商品を届けるオフィス通販「アスクル」の代理店になることだった。

 事務機器販売などを経て94年に入社し、後に3代目の社長となる山崎登氏は、当時の文具小売業に対して疑問をもっていた。顧客から注文が入っても、配達の都合などから納期を明確に答えられないケースがよく見られたからだ。文具の商品特性から細かな注文が多く、極端な例では「ボールペンの換え芯3本」という注文すらある。いくら粗利率が比較的安定している文具商材とはいえ、換え芯3本をもって車を走らせていたのでは赤字は目に見えている。

 このため、ある程度注文がまとまってから配達したり、別件で近くに立ち寄った時に配達したりすることが商慣行として定着していた。注文した商品がいつ届くか分かりにくいことへの不満の表れか、顧客の中には「今日、配達して欲しい」、「いますぐもってきて欲しい」と無茶な注文をするケースが目立った。納期を少しでも早くして欲しいという顧客の焦りが見え隠れしていた。

 注文した商品が「明日届く」ことを売り物にしたアスクルが登場したのは、ちょうどこの頃だった。ITをフルに活用した流通システムを確立し、「明日届く」と納期を明確に示すことで、これまで蓄積されていた顧客の不満を一気に解消する斬新な手法だった。山崎社長はアスクルが立ち上がったばかりの94年暮れに、アスクル事業を手がける文具メーカーのプラスに自ら足を運んで、アスクル代理店になりたいと申し入れた。

 文具業界の大手メーカーに比較して、プラスは斬新な発想はあったものの、品揃えで劣った。当時はまだよく知られていなかったECを活用したオフィス通販の代理店になることについて、社内から猛反発を食らった。

 アスクルは代理店を通じて販売するビジネス形態だが、当時は「メーカー直販」とのイメージが先行してしまい、小売業界いう一部からは反発を受けていた。同業者からは「アスクルの山崎!!」と、罵声を浴びることもあったが、ITをフルに活用して、納期を明確化するアスクルのビジネスは「間違っていない」(山崎社長)という信念は変わらなかった。

 ITを積極活用するアスクルに触発された山崎社長は、自社のビジネスにも本格的なITを導入し始めた。新規顧客開拓のためのチラシを配布してどのくらいの反応があるのかを地域別にデータベース化して、最も効率の良いチラシ配布の方法を研究した。

 効果的なチラシを配布することで新規顧客が急速に増えてくると、今度は代金回収率の悪化が表面化した。すぐに代金回収履歴のデータベース化を行い、与信管理を徹底することで代金回収率の向上を図った。回収できない比率は最悪時で売上高全体の2%ほどあったが、データベースを導入してからは0.1-0.2%へ激減した。

 わずか10年の間で、新規顧客の開拓数は2万5000社に増えた。うち約7割は首都圏だが、残り約3割は首都圏以外の顧客が占めるまでに成長。昨年度の売上高は前年度比4.6%増の約25億円、経常利益は同5%増の2100万円。6期連続の増収増益を達成した。

 これまでアスクルのインフラなどを活用しながら徹底した効率化を推し進めてきた同社だが、将来に向けての課題もある。アスクルの活用や顧客対応のスピード化などによって、顧客の満足度は確実に上昇したものの、同時に一部の顧客から「最近、山崎さんのところから提案が少ないねぇ」と、以前に比べて人的な交流が減ったとの声が出始めた。

 効率化を推し進めるあまり、「顧客の潜在的な需要を掘り起こす文具小売り本来の提案型の営業活動が弱まっているのではないか」(同)と危機感を覚えた。文具・オフィス家具販売の原点に立ち返って、顧客の需要を掘り起こす営業に力を入れ、顧客から得た声は、社内の情報共有システムを使って即座に社員全員で共有し、顧客への理解を深める施策を打った。

 昨年度の売り上げのうち、アスクル関連は9割弱を占めているが、今後はオフィス設計のコンサルティングやオフィス家具の販売などを中心としたオリジナルの提案型商材を増やし、5年後には粗利の半分をオリジナル商品・サービスで稼ぐ目標を立てるなど、独自ソリューションの拡充に力を入れる。(安藤章司)
  • 1