経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>12.日本ノーベル

2005/10/24 20:29

週刊BCN 2005年10月24日vol.1110掲載

 ソフトウェア開発の日本ノーベル(毛塚幹雄社長)は、「脱下請け」、「脱派遣」を経営方針の柱として、IT活用型の経営で業績を伸ばしてきた。エンドユーザーに直接提案する営業手法を貫くため、差別化可能な得意分野の創出やITを活用した経営革新に取り組んだ。「下請け体質のままならば、得意分野の創出やITを活用した経営革新はできなかった」(毛塚社長)と、小手先だけの手直しではなく、経営の根幹から競争力を高めて経営革新を遂行した。

経営の根幹から競争力を高める

 独立系の日本ノーベルは今年4月に創業25周年を迎えた。創業以来貫いてきたのは特定顧客に依存せず、得意分野を伸ばすことだった。ソフトハウスの多くが下請けに甘んじるなか、同社では毎月1社ずつ新規顧客を開拓する提案営業に力を入れた。営業活動を苦手とせず、グループウェアなどのITツールを駆使して営業効率の向上に取り組んだ。毎月1社の新規顧客の開拓という高いハードルを自ら設定し、これを乗り越えるための智恵を絞ることがIT活用型の経営革新に結びついた。

 これまで開拓してきた顧客数は約300事業所。得意分野は携帯電話や情報家電などの組込みソフトや製造業向け産業システム、マイクロプロセッサ(MPU)向けコンパイラの品質検証などの分野に絞り込み、得意分野の明確化に努めてきた。2005年6月期の売上高約18億円のうち、顧客企業1事業所あたりの売上比率は最大でも15%以下にとどめ、大手企業グループ傘下の複数ある事業所をそれぞれ顧客としても、1企業グループ向けの売り上げは全体の30%以下に抑えてきた。売り上げが伸びるなかで、新規顧客を意識的に開拓していくことで、特定顧客への依存度が高まらない努力を怠らなかった。

 人間が理解できる「コンピュータ言語」を、コンピュータが理解できる「機械語」へ翻訳するMPU用コンパイラの品質検証の分野では、国内で指折りの競争力を持った。電機メーカーなどは、新しく開発したMPUの性能を発揮するため独自のコンパイラを開発しているが、日本ノーベルではこのコンパイラが設計どおりの性能を発揮し、コンパイラのバグがないか検証するサービスを提供している。これまで蓄積してきた検証プログラムは30万本にも達し、新しいコンパイラが開発される度に検証プログラムを追加している。

 コンパイラの不具合が人の命を脅かすことにもなりかねない自動車などの場合は、特に念を入れた検証が求められる。自動車メーカーの中には、コンパイラメーカーに対して「日本ノーベルの検証が終了したコンパイラしか使わない」と公言する企業もあるほどだ。創業当初は、人手不足やコストの関係から、当時、東京・神田にあった本社から半径50キロメートル程度の範囲しか営業できなかったが、今はコンパイラの品質検証など他社にない強みを持つことで、日本全国のみならず「世界中の顧客から注文を取れるようになった」(毛塚社長)と胸を張る。

 組込みソフトや産業システムについては、顧客と共同で研究開発を行うスタンスを重視する。企画設計の上流工程から参加することで、ノウハウを吸収し、逆に改善を提案できるよう努めている。また、開発工程においてはプログラマーやSE(システムエンジニア)の客先への派遣は断ってきた。優秀な技術者を顧客に占有され、他の顧客のプロジェクトが中断してしまうのを避けるためだ。

 しかし、1990年代初め、IT関連需要の急増の波を受けて、自社内の社員だけではソフトウェア開発の仕事をさばききれなくなる現象が起きた。安易に社員を増やすと受託ソフト開発の比率が増えてしまい、提案解決型の強みが薄れてしまう恐れがある。そこで同社では、ソフト開発の技術やノウハウを持ちながら、育児や家事を理由に仕事ができない主婦などを対象にソフトウェア開発のネットワークづくりを始めた。情報処理技術を持つ主婦は首都圏だけで約4万人いると推定され、在宅での仕事を希望している女性も多いことに着目した。募集を始めると予想通り、仕事を求める女性から多くの応募があり、250人ほどのネットワークができた。

 ソフト開発ネットワークの名称は「テレワークセンター」で、通称「SELA(セラ=システム・エンジニアリング・レディース・アドバンスメント)」。組込みソフトや産業システムで多く使われるC言語をベースにソフトを開発している。COBOL言語はできるがC言語は苦手という女性には、C言語を習得する通信教育サービスも実施してきた。「SELA」は、在宅ワークの先駆的事例と評価され、1997年に日本サテライトオフィス協会(現・日本テレワーク協会)から第1回サテライトオフィス推進賞を受賞した。SELAスタッフのバックアップのもとで、正社員は注力分野に集中し、他社との差別化を推し進めることができた。

 現在、プロジェクトの進捗管理を行っている社内の情報システムを、将来的には顧客企業にも開放することを検討している。顧客がプロジェクトの進捗管理に参加することで、ともに力を合わせて課題を解決したり、改善を行ったりする仕組みをつくるためだ。最先端の技術を提供するIT業界だが、下請け依存体質から抜けきれず、自らのIT化の遅れが度々指摘されてきただけに、日本ノーベルの経営姿勢は参考になるのではないだろうか。(安藤章司)
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