e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>57.評価専門調査会第5次中間報告(下)

2005/10/24 16:18

週刊BCN 2005年10月24日vol.1110掲載

 IT戦略本部の評価専門調査会(庄山悦彦座長=日立製作所社長)の第5次中間報告について、座長代理の國領二郎慶応義塾大学教授に話を聞いた。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 ──報告作成で苦労した部分は。

 國領 中間報告を出すたびに、各府省からの反響が大きく、対応が大変だったが、一方で調査会と各府省が相互にコミュニケーションが取れる関係が築かれたことは有意義だった。今回の第5次報告も府省からの指摘を受けて調査会側が書き直した部分もあった。音楽のコンテンツ配信サービスと機器で日本が出遅れた原因について「供給者視点が強い日本の著作権制度に原因がある」と指摘したところ、文部科学省から「著作権法だけの責任に帰結されるのは不当だ。法律の問題以前に、ビジネスモデルの問題ではないのか」という趣旨の指摘を受けた。確かに双方が合意できるビジネスモデルを提案できたのならサービスを実現できたはずで、その部分は書き直すことにした。調査会では官の対応だけを評価するのではなく、民間同士の問題も取り扱ってきたつもりで、その点は良かったと考えている。

 ──今回の7つの基本的視点では、これまで取り組んでいなかった分野についても言及した。

 國領 まず指摘したのは、国として取り組むべきものとして政治、司法、安全保障の3つ。環境、防災、移動・交通にも取り組むべきだろう。報告を書きながら越権行為になるとも考えたが、e-Japan戦略で穴のある部分があるとしたら何か。そう考えて指摘させてもらった。政治のIT化も、今のタイミングでなら前向きな議論ができるのではないか。

 ──金融も加えても良いのでは。

 國領 その点はパブリックコメントにかかる時に提案してみても良いでしょうね。

 ──IT産業の今後について、プラットフォームビジネスの重要性を指摘した。

 國領 今後のIT産業を考えれば、やはりプラットフォームビジネスが取れないと、苦しいのではないか。日本メーカーもデバイス単体では競争力を維持して商品も売れているが、相変わらずシステムが売れていない。デバイスだけでは、中国などがキャッチアップしてくるのは時間の問題だ。報告書で音楽配信サービスの話題を取り上げたのも、「せめて日本としては得意としてきた音楽配信サービスのプラットフォームは取りたかった」との悔しさがあったから。これから画像などのコンテンツ配信も控えているので、その分野のプラットフォームビジネスには期待したい。

 ──次世代DVDの規格争いなんてしている場合じゃないと。

 國領 その点はあまり心配していない。VTRもVHSとベータで激しく競争した日本メーカーが勝ち残っていった。確かに顧客には迷惑をかけたかもしれないが、競争することは良いことではないか。

 ──技術戦略の重要性を指摘したのもそうした思いからか。

 國領 IT戦略に携わった人たちの共通な思いとして、e-Japan戦略IIになって利活用が前面に出てきたことで、テクノロジーに対する体系的な戦略が見えにくくなり、迫力不足だったとの印象がある。次期IT国家戦略では、その点をしっかりやった方が良いのではないか。ただ、技術戦略を書く場合、総花的になりがち。議論が分かれるところだが、政府には総合科学技術会議もあるので、IT戦略の方は「どんな産業を立ち上げたいのか」、「どの分野の競争力を付けたいのか」といった出口のイメージを具体的に描いたうえで、「どんな技術力を付けたら良いのか」を考えるやり方が良いのではないか。

 ──最後に戦略の重点化を強調した。

 國領 PDCAサイクルが回るようになれば、本来、成果が出たと評価された部分により多くの資源を投入していくのが当たり前。一度決まった予算配分は既得権化しがちなので、しつこく言い続けていく必要があると考えている。次期戦略で重要な分野は、やはり医療、教育、電子政府だろう。医療に関してはできることがたくさんあるはず。厚生労働省が1992年に策定した「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」が目指すところは評価できるが、それを実現するための作戦がポイントだ。構造改革のツールとしてITのポジショニングを高めていくことが重要だろう。
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