経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>15.中田製作所

2005/11/14 20:29

週刊BCN 2005年11月14日vol.1113掲載

 アルミ精密部品加工メーカーの中田製作所(中田寛社長)は、最大の強みである技術力をもっとも効率よく発揮するため、ITの活用を進めている。納期の短い注文にも迅速に応え、満足のいく製品を提供すれば、顧客は必ずリピーターになってくれる、との信念がある。それを実現するツールが、ITということだ。

ITの効率活用で高い技術力生かす

 同社は、アルミ素材に特化し、切削加工による精密部品を製造している。半導体や液晶パネルの製造装置、医療医薬機器、産業用ロボット、航空機、自動車など、あらゆる業界から需要があり、ビジネスの裾野は広い。

 もっとも、悩みがないわけではない。それは、発注のロットが小さいことだ。客先からの注文は、多くても10個というものが大半。場合によっては、わずかに1つという注文も少なくない。

 ただし、これは技術力が評価されているためでもあり、企業の特性として、やむを得ない面もある。このため、77年1月の創業以来、効率を追求することは、いわば「永遠の課題」ともいえた。アルミ精密部品の製作には、マシニングセンターやNC旋盤、フライス盤などの機器を使用するが、工程によって機器を使い分ける必要がある。しかし、バイスなどの冶具は重量があり、ものによっては取り替えに30分もかかることさえある。各種の機器を効率よく組み合わせれば、製作時間も短くなり、結果として、コストも、価格も抑制できる。受注者と発注者の双方がメリットを享受できる。

 ただし、効率化のための段取りを整えるのは、職人でもあった経営者(中田良文現会長)の頭の中。現在のように月に2000枚、1日当たり100枚から150枚の図面をさばくには、限界があった。

 中田社長が銀行マンから家業を引き継ぐために戻った6年前は、パソコンもなく、ファイリングされた膨大な製品の図面が事務所を占拠するという状態だった。「(段取りは)俺しかできないし、教えるものでもない、という業務を変えないといけないと思った」という。過去に発注のあった図面を探し出すだけで、時間がかかる。さらに、探し出した図面には、書き込みなどがしてあり、現場では見づらいものだった。図面を管理するとともに、ISO対応のための文書管理なども取り込んだ独自ソフトの開発には300万円かかるが、従来は無駄に費やされていた時間を有効に使えるようになり、年間350万円の効率化が見込めた。早速、稟議書を作成、導入した。売上高は順調に拡大。それ以上に「現場の効率を上げたかった」という目標が達成され、経常利益も伸びている。

 中田製作所のIT活用は、営業面でも効果を上げている。インターネット営業の武器となっているホームページ(HP)が、それ。CAD情報やNC工作機械データなどの交換から出発した「NCネットワーク」などを通じ、新たなビジネスの可能性を知り、分かりやすく、見やすいHPの作成に着手した。単に全国から問い合わせがくるHPでなく、注文につながるHPが目標だった。「顧客の信頼を勝ち取るために、技術紹介の動画も取り込んだ」ことで、技術力を求める発注者をピンポイントで狙い撃ちすることに成功。いまでは、問い合わせより注文の比率が高くなっている。技術開発を求めるニーズは全国にあり、HPにより、そうしたニーズをビジネスに結びつけることが可能になった。同時に、新たな技術開発ニーズに応えることで、自社の技術力も向上するという好循環が生まれている。

 インターネットの利用によるメリットは、顧客獲得だけにとどまらない。新たな技術開発のために必要となる工具を作ってくれる会社も、ネットを通じてコンタクトできた。大手工具メーカーが対応してくれなくとも、新しいことに挑戦する中小企業は全国にある。類は友を呼ぶ、ということだ。蚊の針ほどの、眼にも見えない8ミクロンのドリルを作る会社と知り合い、いまでは直径5ミクロンの極微小孔を加工できる技術を確立した。そして、新たな技術を活用し、これまで法人向け中心だったビジネスに加え、個人向けの展開も計画中。「ITを使えば、個人向けビジネスも可能だろう」との確信を深めているようだ。

 同社は、ほぼ2年に1度のペースでシステムを更新している。その間に現場からの声を吸い上げ、反映させるという考えだ。しかし、あくまで「費用対効果」が基本。「機械トラブルを通報するシステムを導入しても、機械メーカーが24時間体制でメンテナンスを行ってくれなければ、意味はない」。じっくり考え、効果が見込めるなら本気で取り組む、というのが同社のスタンスとなっている。(山本雅則)
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