システム開発の効率化最前線

<システム開発の効率化最前線>6.ピースリー .NET特化の開発環境で成長

2005/12/05 16:04

週刊BCN 2005年12月05日vol.1116掲載

 ソフト開発のピースリー(宮塚雅士社長)は、.NETアーキテクチャーをベースとした独自の開発フレームワークを構築して業績を伸ばしている。これまでUNIXや組み込みソフトなどプラットフォームを特定せずにソフト開発を手がけてきた。だが、海外オフショア開発の本格化などで開発単価の下落が深刻化したことを受けて、.NETアーキテクチャーをベースとしたソフト開発へと経営資源を集中。プラットフォームの統一を図ることで競争力を高めた。(安藤章司●取材/文)

開発フレームワークを独自策定

■危機感から始まったプラットフォーム一本化

 ソフトウェア開発単価の下落傾向が続くなか、同業他社と差別化できなければ勝ち残れない──。こうした危機感から、2003年、.NETアーキテクチャーをベースとしたソフト開発に経営資源を集中し、競争力を高める戦略を打ち出した。

 人件費の安い海外でソフト開発を行うオフショア開発が本格化し、コスト面で不利な国内ソフト開発会社は、付加価値をつけなければ収益性が悪化する。社員数約40人の中堅ソフト会社のピースリーは、大手システムインテグレータ(SIer)などから請け負ったソフト開発が売り上げの中心を占めている。エンドユーザーに直接営業して、経営課題をITを使って解決するソリューションビジネスの比率が低い同社では、ソフト開発の単価下落は経営に大きな影響を与えかねない。

 90年の創業以来、UNIXやC言語を使った組み込みソフト、MS-DOS、ウインドウズなどプラットフォームを特定しない雑多なソフト開発が多くを占めてきた。元請けの大手SIerなどが指定するプラットフォームに準拠したソフト開発を行ってきたため、社内開発要員のスキルがプラットフォームごとに分散していた。「何でもできるが、特徴のない」(宮塚社長)ソフト開発ベンダーであった。

 打開策として打ち出したのが.NETアーキテクチャーへのシフトだった。.NETアーキテクチャーに経営資源を集中することで、全社員の.NETに対するスキルを大幅に高めることが可能になる。そうすれば.NETベースのソフト開発で「有利に立つ」ことができると考えた。

■.NET対応の開発以外は「絶対に受けない」

 .NETアーキテクチャーへ大きく舵を切った03年以降は、「.NET以外の仕事は受けない」方針を貫き、04年6月期では、受注高ベースで.NETアーキテクチャー関連の比率をほぼ100%に高めた。大手SIerなどからの請負開発型のベンダーは、元請けが指定するプラットフォームに準拠したソフト開発を行うのが通例だが、自らプラットフォームを指定するのは「珍しい」(営業部の桝井芳男氏)動きだった。

 だが、当時は.NETアーキテクチャーに特化したソフト開発ベンダーそのものが少なかったこともあり、仕事が途切れるどころか、逆に増えた。他のプラットフォームでのソフト開発案件の受注を拒んでいるだけに、万が一、.NETベースの案件がなければ経営が立ち行かなくなる。それでも、社員に.NETプラットフォーム対応のソフト開発以外は「絶対にやらせない」とルールを徹底したことが時代のニーズにマッチした。

 .NETアーキテクチャーに特化した後は、ソフトウェアの部品化に力を入れた。開発プラットフォームを統一してからは、頻繁に使うソフト部品を蓄積しやすくなり、これまでに約100種類の部品をライブラリ化した。ソフト部品は「ピースリーライブラリ」として整理し、さまざまな開発案件で積極的に再利用してコスト削減と開発スピードのアップを図った。

 ソフトウェアの部品化を進めるだけでなく、これらの部品を有効に活用するための開発フレームワークも策定した。これまで蓄積してきたピースリーライブラリをベースとしたもので、05年7月から「ピースリーフレームワーク」として本格的な活用を始めた。.NETアーキテクチャーに準拠したフレームワークで、主にウェブ型のアプリケーションのクライアント部分を開発する開発言語ASP.NETをベースとしている。

 開発フレームワークは、一般的にアプリケーションの「設計部分」と「作り込み」の2つの部分に分かれる。設計部分のフレームワークは、多くのソフト開発ベンダーが策定しているものの、作り込みの部分まで踏み込んで策定しているケースは「少ない」(開発部.NET業務支援グループの櫻井努氏)という。アプリケーションの作り込みの部分は、作り込みのベースとなるライブラリ群の拡充が欠かせないため、ライブラリの蓄積が少ない開発ベンダーは、作り込みの部分まで踏み込んだフレームワーク化が難しいからだ。

 ピースリーでは、いち早く.NETアーキテクチャーに対応し、約100種類のライブラリを蓄積してきた実績がある。アプリケーションの作り込みの部分では、このライブラリをフルに活用した独自の「アプリケーション・コンポーネント・フレーム」をつくった。これに設計部分の「設計フレーム」を統合させることで、独自の「ピースリーフレームワーク」を策定した。

■フレームワークの優位性で顧客から高い評価

 ピースリーフレームワークを使えば、使わなかったときに比べて開発生産性が最大で3倍高まるという。実際には、元請けの開発フレームワークに準拠しなければならないケースがあるため、すべての案件で開発生産性が3倍になるわけではない。だが、部分的にでもピースリーフレームワークを適用していくことで、着実に生産性を高めている。顧客にピースリーフレームワークの優位性を訴求していくことで、自社の強みや技術力の高さをアピールでき、顧客から「高い評価」(宮塚社長)を得ていると胸を張る。

 .NETアーキテクチャーに特化し、ライブラリ化や独自の開発フレームワークを策定するなど開発生産性の向上に取り組むことで、コスト削減や納期短縮、品質アップを実現してきた。こうした取り組みが効を奏し、02年以降の単価下落を「食い止めることができた」(同)と、同業他社の開発単価が下がるなかで、相対的にソフト開発の付加価値を高めることに成功したと話す。

 業績も上向きだ。設計フレームとアプリケーション・コンポーネント・フレームを統合した独自のピースリーフレームワークを活用した案件が増えたことで、開発生産性が大幅に向上。社員数は微増程度だが、今年度(06年6月期)の売上高は前年比約50%増のおよそ3億円に達する見通しだ。社内で消化しきれない案件は、一部外注することはあるものの、基本的には開発単価を下げることなく、開発生産性の向上による受注件数の増加が売上増の原動力になっている。

 請負型のソフト開発のビジネスモデルは値下げ圧力に直面するケースが多く、収益力が弱まっていると指摘されるなかで、同社は着実に業績を伸ばしている。

 03年に.NETアーキテクチャーへの戦略的な転換を決断し、.NET以外の仕事は一切拒否した。開発要員などの経営資源をすべて.NETに集中し、ソフト部品のライブラリ化を推進。05年7月には独自の統合型開発フレームワークを完成させた。こうした戦略が付加価値を生み出し、ビジネスの拡大に結びついている。

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