視点

小さな政府への舵取りが始まった

2006/01/02 16:41

週刊BCN 2006年01月02日vol.1119掲載

 明けましておめでとうございます。

 景気回復の足取りが着実になってきたことで、IT業界にとっても今年は明るい展望のもてる年明けとなった。05年半ばがその分岐点といわれるが、昨年を振り返ると、経済以外でも大きな転換点であったような気がする。

 なにより、少子高齢化社会での財政再建に取り組むための合意が固まったのが、昨年9月の衆議院選挙である。国民の過半数が郵政民営化を選択することで、日本社会は「小さな政府」を指向する方向へと大きく舵を切り始めた。年末にかけて、公務員の純減目標の設定、地方交付税の削減、国が負担する診療報酬の過去最大の引き下げと、矢継ぎ早に辛口の歳出削減策が決定した。この動きはもう後戻りがきかない。連動するように、厚労省が、05年に「人口減少」が確実になったと発表した。なんのことはない、当初騒がれた07年より2年も早く、出生率が死亡率を下回る人口減少時代に突入していたわけだ。これでは、ポスト小泉が誰であろうと、社会コストの削減に向き合わざるを得ないだろう。

 この点で、IT業界は大きな社会的使命を負っている。労働生産性の問題だ。昨年12月に社会経済生産性本部が発表した労働生産性の国際比較(03年実績)によると、日本はOECD加盟国中19位。ただし製造業に限ると4位で、非製造業の生産性が相変わらず低いことを物語っている。労働人口が減るのであれば、生産力を上げるか、コストを下げないと、経済は維持できない。企業レベルでのIT活用の強化だけでなく、社会制度そのものの効率化、情報化が不可欠だろう。IT業界は生産性向上の推進役として、この難題に取り組むことを求められているわけである。

 01年に始まったe─Japan戦略が、今年3月で第2フェーズを終了する。業界では「自治体案件は儲からない」という声が大勢だ。しかし、この5年で、行政の内側の情報インフラは一応整った。まだ民間のネットとリンクしていないためにサービスの実効性は乏しいが、内と外を隔てる壁が崩れれば、電子申告や電子納税、民間のポータルとリンクしたワンストップの総合行政サービスなどが動き出す。

 「小さな政府」に動き始めた政府の改革路線が第3フェーズのe─Japan「IT新改革戦略」にどのような位置づけを加えていくのか。業界全体として、このプロジェクトにもう一歩深く関与していくべきだろう。
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