システム開発の効率化最前線

<システム開発の効率化最前線>8.KDDI 携帯電話向け業務アプリ開発を推進

2006/02/06 20:37

週刊BCN 2006年02月06日vol.1124掲載

 KDDI(小野寺正社長)は、XMLウェブサービス技術を駆使した携帯電話向け業務アプリケーションソフトの開発を推進する。同技術を使うことで業務アプリケーションを携帯電話に取り込む開発工数の大幅な削減を実現した。マイクロソフトの.NETフレームワークをベースとした業務アプリケーションの取り込みも進んでおり、携帯電話をビジネス端末として活用する動きが急ピッチで進んでいる。(安藤章司●取材/文)

ウェブサービスを直接取り込む

■SOAP活用し開発工数を大幅削減

 会社との業務連絡などの用途で、今や外勤者のほとんどが携帯電話を使っている。従来は音声による通信が中心だったが、ここにきて携帯電話を業務システムの端末として活用する需要が急速に高まってきた。小型で軽く、常に携帯している電話機が業務端末の機能を兼ね備えるようになれば、利便性は大幅に向上し、生産性も高まる。通信事業者にとってみれば、飽和状態にある音声通信の料金に加えて、今後伸びが見込まれるデータ通信の収益を伸ばせる。

 だが、こうした期待とは裏腹に、携帯電話に対応した業務アプリケーションの種類が少ないのが課題だった。業務アプリケーションの多くがパソコンに対応した作りであるため、携帯電話には対応していない。携帯電話で動作するよう作り直すか、パソコン用のデータを携帯電話用に変換するシステムを別途用意しない限り、パソコン用のプログラムや業務アプリケーションを携帯電話で動かせないハードルがある。ソフト開発ベンダーにとってみれば、開発コストの負担を求められることになり、携帯電話に対応した業務アプリケーションの開発が進まない原因のひとつになっていた。

 KDDIでは、こうした問題を解決する手段として、業務アプリケーションをネットワークを通じて利用する「XMLウェブサービス」に着目。XMLウェブサービスで使われる通信方式「SOAP(ソープ)」に携帯電話を対応させることで、既存の業務アプリケーションを直接的に携帯電話に呼び出す仕組みを昨年10月に考案した。業務アプリケーションはXMLウェブサービスに対応している必要があるものの、マイクロソフトの開発基盤「.NETフレームワーク」などでは標準でXMLウェブサービスに対応しており、「ハードルは格段に低くなった」(有泉健・モバイルソリューション事業本部モバイルソリューション商品開発本部モバイルソリューション3部長)と、携帯電話への対応にかかる開発工数を大幅に軽減した。

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■来年度300社との開発契約を目標に

 これまでも、XMLウェブサービスベースの業務アプリケーションを携帯電話に呼び出すことはできた。

 しかし、携帯電話本体にSOAPを解析する機能が備わっていなかったため、ネットワークの途中で携帯電話が解析できる通信方式に変換するシステムを別途用意する必要があり、コスト高の原因になっていた。携帯電話対応の業務アプリケーションがひとつ増えるたびにデータを変換するサーバーを増設する必要がでてくる。サービス開始までのリードタイムが長くなったり、サーバーの運用コストがかさんでいた。

 携帯電話でSOAPを直接解析できるミドルウェアを開発すれば、データ変換用のサーバーがなくても、業務アプリケーションを動かせる。KDDIはSOAP関連技術で国内屈指の技術力を誇る札幌のソフト開発ベンダー・テクノフェイス(栗田好和社長)と共同で開発。SOAPを使って携帯電話に業務アプリケーションを直接呼び出すミドルウェアを国内で初めて実用化した。

 このミドルウェアは、KDDIが採用している携帯電話用の基本ソフト(OS)BREW(ブリュー)上で動作し、名称は「BREWミドルウェアお役立ちツールセット」。

 現在、開発パートナーに無償で提供されており、SOAP技術を使った携帯電話向け業務アプリケーションの開発が急ピッチで進んでいる。

 業務アプリケーションやビジネスコンテンツを開発するパートナー約1000社のうち、来年度(2007年3月期)、約300社にSOAPベースの業務アプリケーション開発をコミットしてもらえるよう呼びかける。標準でXMLウェブサービスに対応している.NETアーキテクチャーをベースにビジネスを推進する.NETビジネスフォーラム(松倉哲会長=東証コンピュータシステム社長)のメンバーにも開発を働きかける。同フォーラムにはKDDI自身も参加している。業務アプリケーションの品揃えを増やすことで、顧客企業の多様なニーズに応えていくことになる。

■携帯が営業支援やGISにも活躍

 すでに営業支援システム(SFA)を開発するセールスフォース・ドットコムや地理情報システム(GIS)などを開発する東京ガス・エンジニアリングなど4社ほどがSOAPを使ってKDDIの携帯電話向けに業務アプリケーションの提供を開始している。従来は、携帯電話向けに業務アプリケーションを作り直すための先行投資やSOAPプロトコルを変換するサーバーの増設費や維持費など「さまざまなリスクやコストを算出してからでないと参入できなかった」(福原信幸・モバイルソリューション商品開発本部モバイルソリューション3部1グループ課長)が、XMLウェブサービスにさえ対応していれば、最小限のコストで業務アプリケーションを携帯電話で呼び出せるようになった。

 野村総合研究所では、携帯電話対応の業務アプリケーションなどの「モバイルソリューション」市場が、2010年度には1兆7000億円に拡大すると予測している。04年度が約3000億円だったのに対して、大幅な伸びが期待できそうだ。BREWに対応したデータベースソフトなどを開発するソア・システムズ(吉田源治郎社長)では、携帯電話に対応した業務アプリケーションの「開発需要が急速に高まってきた」(佐々木雅一・営業部部長)と手応えを感じている。SOAP方式への対応はまだだが、早い段階で自社のデータベースをSOAPアプリケーションに対応させる方針だ。

 携帯電話には高解像度のカメラや短距離無線通信のブルートゥース、GPS(全地球無線測位システム)などの高性能なデバイスが組み込まれており、こうしたデバイスを業務アプリケーションで制御することもできる。携帯電話特有の優れたデバイスを組み合わせれば、応用の幅はさらに広がる。

 携帯電話事業に新規参入する通信事業者が相次ぐなど、携帯電話市場は激しい競争にさらされている。従来の音声電話や電子メール程度の一般的なサービスだけでは、差別化が難しく、より安価な携帯電話サービスに顧客が流れてしまうことも考えられる。これに対して、業務アプリケーションと密接に連携した形で提案したケースでは、独自の付加価値が高まって長期的に使ってもらえる可能性が高まる。KDDIでは売れ筋の業務アプリケーションを、SOAP方式で直接的に携帯電話へ取り込むことで他社との差別化をより明確に打ち出し、同分野におけるシェア拡大を狙う考えだ。
(取材協力:.NETビジネスフォーラム)
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